2015年9月17日木曜日

第1188話  はも鍋で旧交を温める (その2)

千駄木は団子坂の「にしきや」にいる。
キスの天ぷらを食べ終えた頃、
やっとこさ、刺盛りが到着して、やれやれ。

盛合せは3点。
かつお・いわし・白いかである。
夏の宵における酒の合いの手としては恰好の組合わせだ。
殊に白いかがよろしい。
ゲソの部分は軽くボイルされており、
このひとてまが食感の妙を構築してくれる。

かつおといわしもまずまず。
生の青背は好まぬJ.C.ながら、不満はまったくない。
かと言って大満足したわけでもない。

およそ20年前の記憶を紐解きながら語り合う話題はつきない。
思いおこせば、二夫婦でブロードウェイに出掛け、
ミュージカルの「レ・ミゼラブル」を観劇したこともあった。

9・11の悲劇が勃発するずっと以前、ニューヨークは平和だった。
犯罪件数だって他国が非難するほど多くはなかった。
危ないエリアにさえ、足を踏み入れさえしなければ、
身に危険を感ずることもなかったハズだ。

かく言うJ.C.もジャズを聴くときは
日本からの観光客であふれる「ブルー・ノート」や
「ヴィレッジ・ヴァンガード」なんかに目もくれず、
もっぱらハーレムまでクルマを飛ばしたものだ。

刺身盛合せの残り半分は
新潟・南魚沼の銘酒・八海山とともに味わう。
冷酒である。
八海山は気に入りの銘柄ではないが
かつおの持つ酸味、つまりヘモグロビンとの相性はよかった。

いよいよ当店の夏の自慢メニュー、はも鍋である。
二人前注文しようとすると、女将だろうか、
まずは一人前を召し上がれとの的確なアドバイス。
結果としてそれでじゅうぶんだったから
くだらぬチェーン居酒屋の押っつけ商法との差を感じる。
ありがたし。

鍋はなかなかの味。
出汁で炊く、いわゆるすき鍋ながら
丁寧に骨切りされたはもは滋味たっぷり。
ポン酢でいただく、ちり鍋仕立てが好みであっても
これはこれでよい。

八海山のお替わりをして鍋のつゆを飲み干した。
現在の職を辞し、近々、新天地・名古屋に赴任する、
F田サンの行く末に幸多からんことを祈り、
再び乾杯してお開きとした。

「にしきや」
 東京都文京区千駄木3-34-7
 03-3828-0935