2015年9月29日火曜日

第1196話 K嬢の里帰り (その2)

そうしてこうして3人による「旧交温め会」の設定に入ったワケだ。
ところが日程が合わない、合わない、合いません。
K嬢にとっては短い一時帰国の間だし、
娘さんを同行しているので
自由になる時間がなかなか見つからないらしい。

とうとう、今回は見送りという段になったのだったが
ある夕、
「明日、NYKに戻りますが、今晩、お時間取れませんか?」―
かくなるメールがK嬢より来信した。

何でも文京区・根津の実家に滞在しているそうだ。
根津はわが縄張り、その夜の予定を早めに切り上げて
20時過ぎには根津の交差点に帰着。
スーパー・赤札堂の前で18年ぶりの再会を果たすことができた。

K美クンもすでに五十路に差し掛かっている。
他人(ひと)のことを言えた義理ではないが
往時は三十路の入口に立っていたのだ。
いや、実に隔世の感を禁じ得ない。

それでも歳よりは若く見えるし、面貌にさほどの衰えがあるでもなく、
何よりも中高年最大の難敵、肥満の兆候すら見とめられない。
普段から節制しているのだろう、立派なものである。

互いに食事を済ませているから行く先はバーだ。
根津という小さな町は
言問通りと不忍通りの交差点がその中心。
J.C.の提案は交差点の北東にあるブラジルチックなカフェバーだったが
K嬢が主張したのは南西のワインバーであった。

むろんのことに異論があるハズもなく、
ワイン商を兼ねる「TAMAYA」に向かった。
不忍通りの1本西にある裏道の2、3階がその店舗だ。
数年前にはこの場所で高級コリアンが営業していたが
業績不振に苦しんでいたのだろう、すでに撤退した。

「TAMAYA」は2階がワインバー、3階がレストラン。
食後とはいえ、オードヴルを2皿ほど注文してワインを開けるつもり、
3階に上がった。
上がったがフロアはすでに満席状態であった。
へぇ~っ、ビックリしたなもう!

年寄りばかりが目立つ根津は絶対人口が少ないリトルタウン。
根津神社のつつじ祭や例大祭でもない限り、人混みを見ることもなく、
飲食店にしたって、行列のできる今風の店などただの1軒としてない。
木造三階建ての串揚げ店、「はん亭」が唯一、
その集客力を誇る程度なのである。

仕方がないから今上った階段を、
今度は下って2階のバーへ戻る初老のカップルであった。

=つづく=