2016年4月11日月曜日

第1335話 アイスランドの鯨 (その2)

またもや古いハナシで恐縮ながら時は1974年。
スカンディナヴィア半島の西端、
ノルウェー王国の首都・オスロへは
フィヨルドの街、ベルゲンから入った。

その日はユースホステルの質素な夕食をとり就寝。
翌日はランチを奮発して市内のレストランに入店したのだった。
レストランといっても大衆的でカジュアルな店である。
しかし、さすがに捕鯨大国、
ホエールステーキがちゃんとメニューに載っていた。

現地の人々が鯨肉をほおばる姿をただ、ただ、
指をくわえて眺めるしかて手立てがなかった。
オメエも注文すりゃいいじゃねェか! ってか?
それができりゃ苦労はしないヨ、セニョール!

食べたい気持ちは山々なれど、
ビーフステーキですら手が出ないのに
その倍もするホエールは夢のまた夢。
先立つモノにに恵まれなくては如何ともしがたし。
日本国外で初めて出逢った鯨なのに
哀れJ.C.、見逃し三振の巻である。
今振り返れば貴重なチャンスに
手も足も出なかったことが残念無念。

現在に戻ろう。
アイスランドに捕獲されたナガスクジラに
図らずも遭遇したのは
いつも海産物のお世話になっている御徒町「吉池」だった。
その直後に近所の松坂屋でも見たし、
北千住・丸井の「食遊館」にもあった。

今までアイスランド産の鯨、
あるいはナガスクジラをまったく見掛けなかったのに
いきなりワァーッと市場に出回ってきた感じ。
どこぞの商社、あるいは水産会社が
新しいパイプを敷いたものと思われる。
 
ナガスクジラは200グラムで800円ほど。
わが国の調査捕鯨で和歌山県・太地町に揚がる、
ミンククジラとほぼ同値じゃなかろうか。
もちろん食味はナガスが数段上である。
嫌な臭みもまったくなくて実に美味しい。
稀少部位の尾の身でも何でもないのに
テイスト、テクスチャーともに申し分なく、
食べ手に幸せを運んでくれる。
 
パックを開き、指先で身肉にふれてみた。
柔らかさの中にもほどよい弾力。
食べる前からその美味を確信させ、
今宵はラグジュアリー・ナイトの予感がしたのであった。
 
=つづく=