2016年4月28日木曜日

第1348話 池袋の昼 (その7)

「ふくろ本店」のカウンターに独り。
ホッピーを飲んでいる。
この店はほとんどが独り客である。

さて、前回はラーメンを食べての来店だった。
今回は天丼だから、かなりヘビーだ。
再びチョイ焼きたら子のお世話になるかな?
しかしねェ、それもまた芸のない選択だよなァ。

つらつらと壁の品書きを目で追ってゆく。
おっと、そうだ、コイツにしよう。
目がとまったのは数の子わさび漬である。
ハハ、タラの子からニシンの子にシフトだネ、こりゃ。

子どもの頃から魚卵好きだったからなァ。
おふくろの煮つけた助宗鱈や真鯛の真子で
ごはんを食べるのが大好きだった。
今じゃ彼らを肴に酒を飲むのが至福である。

焼きたら子と違って3分と経たずに届いた数の子わさびだが
数の子の姿がほとんどない。
割り箸で中を突ついても見当たらない。
はっきり言って不満である。
それが証拠に半分以上残したもの。
天丼のあとでつまみを必要としないから、まっ、いいか。

ビールが飲みたくなったがホッピーの”外”がまだ残っている。
よって”中”の焼酎をお替わり。
ほんのりと酔いが回っていい気持ち。
昼酒の良さはここにある。

隣りのオジさんから話し掛けられた。
「よく来るんッスか?」
「ええ、ときどきですけどネ」
「アタシゃ近所だからしょっちゅうですわ」
「池袋にお住まい?」
「いえ、電車に乗って・・・その、大山っちゅうとこです」
「ああ、東上線のネ、ボクも子どもの頃、
 中板橋にいたことがありますヨ」
「それじゃお隣りさんだ、どっかの飲み屋で一緒だったかも?」
「いえ、いえ、子どものときですから・・・」

こんな調子で始まって
何のこたあない、1時間近くも世間話をしてしまった。
おかげで生ビールを2杯も追加飲みする羽目に―。
いや、マイッたな。

実はこの日の夜は予定あり。
本郷菊坂下のロシア料理店「海燕」で小宴を張ることになっている。
そこではロシアのウォッカ、ストリチナヤが待っている。
だのに真ッ昼間からこんなに飲んじまって・・・

♪ どうすりゃいいのさ 思案橋 ♪

オラ、もう知らねェ!

=おしまい=

「ふくろ本店」
 東京都豊島区西池袋1-14-2
 03-3986-2968