2016年4月15日金曜日

第1339話 チューブばっかり三兄弟 (その3)

近頃はホームグラウンドの浅草以上に
出没する機会の多い谷根千。
谷中のよみせ通りはその道路イコール、
台東区と文京区の区境だ。

数週間前に焼き鳥「今一」のカウンターで独酌したときのハナシ。
スタッフ二人を前に独りで飲んでいるのは
いささか尻の座りが悪い。
リラックスにはほど遠い感覚がある。

そこへ一艘の助け舟よろしく、
一組のカップルが入って来た。
中高年のオッサンにアラサー女の組合わせは
職場の上司と部下だろうか?
不倫感は漂わないけれど、実のところはよく判らない。
オトコは店主と親しげに言葉を交わしているから
おそらく近隣の常連なんだろう。
彼を便宜上、オヤジAと呼ぶことにしよう。

当方はバイト娘に焼き鳥を注文。
最初はもも肉(130円)とハツ(150円)を塩で―。
もちろん焼き手は店主だが
所作にキビキビしたところが見られないのは
経験不足のせいらしい。
こりゃ、期待できそうにない。

カップルは一番奥のテーブルに着き、生ビールを飲み始めた。
声高の会話が耳に届いてくるものの、聞こえそうで聞き取れない。
まっ、べつに興味があるわけじゃなし、どうでもいいけどネ。

やおら振り向いたオヤジAが店主に問い掛けた。
「マスターさァ、このあいだ食べたササミ、またやってくれる?」
「エッと、何でしたっけ?」
「ほら、いろんな味が混ざったヤツヨ」
「アッ、はい、はい、判りました」
ここでアラサーが追い打ちを掛ける。
「明太子とかも入ってたわネ」
「ええ、はい、はい」
「とりあえず3本づつなっ!」

おい、おい、ササミだけ6本も注文するのかや。
耳をダンボにするまでもなく、やりとりのすべてが把握できた。
コイツは見ものだゾ、
なんて予期せぬイベントを楽しみにしているうち、
自分のモモとハツが焼き上がった。

ありゃりゃ、小ぶりなのはいいんだが
串打ちがあまりにも稚拙で見た目が貧相きわまりない。
ダメだ、こりゃ!
と、思いつつもハツをかじってみたら味はなかなかである。
意外に食材はちゃんと仕入れているらしい。

=つづく=