2016年5月3日火曜日

第1351話 ズブロッカは桜餅の匂い (その3)

樋口一葉ゆかりの本郷菊坂。
その坂下にあるロシア料理店「海燕」。
ウォッカのストリチナヤでザクースカを楽しんでいる。

北海道を旅していて釧路の和商市場や函館の朝市で
生鮭とイクラの親子丼に出会うことたびたびなれど、
あの手のドンブリよりも
今、食している親子、オン・ザ・ブリヌイのほうがずっと美味しい。
そりゃそうだろう、旨味の凝縮という点においては
生鮭よりもスモークサーモンだからネ。
生のほうが美味だったら
手間ヒマ掛けてスモークする意味がまったくない。
 
ここでJ.C.の提案により、
ロシアのストーリからポーランドのズブロッカに移行した。
みなさん異論をはさまず、素直についてくる。
実にエスコートしやすいねェ。
 
ズブロッカとはウォッカにバイソングラスを漬け込み、
その成分を抽出したものだ。
バイソングラスは直訳すると野牛草。
ヨーロッパ野牛の主食となる野草てある。
 
乱獲がたたり、20世紀初頭に一度は絶滅したバイソンだが
動物園などの生き残りを人工飼育して
現在はポーランドのビアウォヴィエジャの森に
およそ400頭が棲息している。
ちなみにベラルーシとの国境沿いのこの森は
ヨーロッパに唯一残された太古の自然として
世界遺産に登録されている。

ズブロッカはポーランドで正しくはジュブルフカ。
バイソングラスのことである。
イネ科の植物・ジュブルフカは
ビアウォヴィエジャの森にしか自生しないといわれている。

ポーランド国内でズブロッカはポルモス・ビャウィストク社の独占販売。
アメリカ製などは天然のジュブルフカが使用されていないため、
世界で唯一の本物と言える。

生まれて初めてズブロッカを飲んだ女性陣は声を揃えて
「桜餅みた~い!」―
そう、まことにその通りである。
ひと月前の桃の節句で口にしたばかりだから
味覚が即座に反応した様子だ。

これはクマリンという芳香族化合物の成せるワザ。
桜の葉やバイソングラスに含まれるクマリンは
抗菌及び抗酸化作用があるが
大量かつ継続的に摂取すると肝臓・腎臓に害を及ぼす。
したがって晩酌にズブロッカを毎晩飲むのは
控えたほうが身のためなのだ。

=つづく=