2016年5月27日金曜日

第1369話 狸が呼んでるそば屋 (その4)

駒込の「大和屋」でビールを飲んでいる。
相方は鴨なんばんの器片手に
もう一方で箸の上げ下げに勤しんでいる。

3本目の中瓶が到来したので
一片の鴨肉を譲り受け、ビールのアテとした。
モグモグ・・・ふむ、まずまずの合鴨であった。

ほどなくくだんのかき揚げせいろとかき揚げ丼が運ばれる。
豪華なセットは食べでがありそう
鴨なんばんとは裏腹に相当なボリュームである。
しかもコレが800円だから、お食べ得というほかはない。

セットをP子に任せ、こちらは残り半分の鴨なんに取り掛かった。
温そばの常としてややノビかかっているものの、つゆは及第点。
急に日本酒が欲しくなったが
どうせここ1軒で終わるハズもなく我慢した。

鴨なんばんを食べ終えたとき、相方はかき揚げせいろの道半ば。
今度はソレをもらい受け、かき揚げ丼を先方に託す。
やれやれ、卓上はそれなりに忙しい。

かき揚げに使用されている小エビは桜海老より一回り小さい。
南氷洋のヒゲクジラが大量に補食する、
オキアミではないかと思われた。
香ばしさは足りなくとも玉ねぎの甘さが功を奏して
そこそこの水準には達していた。
そばは冷たいせいろのほうが温ものより美味しくいただける。

全品、半分づつシェアしてきれいに平らげた。
はて、これからどうするか?
会計しながら思いを致す。

店を出たとき、相方から質問。
「お店、特におそば屋さんの玄関に
 どうして狸の置物があるの?」―素朴な疑問である。
「そりゃ、一種の商売繁盛祈願だヨ」―こう応える。
「どうゆうこと?」―まっ、それだけじゃ判らんわな。
よって、狸→タヌキ→他抜き
他店を抜いて自店が繁栄する言葉の活用を説明してやった。

「ところでP子、鎌倉ではしょっちゅう狸を見掛けるんじゃない?」
「田舎だからってまたバカにして! めったに見ないわヨ」
つい最近、新聞で読んだが都内じゃ狸がずいぶん増えてるそうだ。
ところが都心寄りに棲んでいるせいか、トンと見掛けない。

古来、狸はいつも狐にだまされてガミを食う役割。
他を抜くどころか、間が抜けたイメージだ。
ただし、そのぶん愛嬌が生じて
キツネ目の男より、タヌキ目の女のほうがずっとずっと好もしい。

=つづく=