2016年5月4日水曜日

第1352話 ズブロッカは桜餅の匂い (その4)

ストーリとズブロの心地よい酔いが回ってきた。
みんながみんな饒舌になってきた。
(ちょっと、ヤバいヨ)
このままじゃオトコはともかく女郎衆に
爆沈の危険度が高まっているように見えた。

小休止を与えなければならない。
”飲み”から”食い”にシフトさせなければ―。
注文したのはロシア人の大好物、セリョートカである。
何だ!それは? ってか?
何を隠そう、いやべつに隠す必要はないんですが
ニシンの酢漬けであります。

わが国に小肌の酢洗いがあるごとく、
イスパーニャにイワシのボケロネスがあるごとく、
ロシアにはニシンのセリョートカがあり申す。

魚種は変われど、
共通するのは調味液のヴィネガーである。
魚の生食において酢は必要不可欠、
これなくして江戸前鮨は成立しないし、
欧州人は生臭い青背のサカナを
食べることなどできやしないのだ。

セリョートカはゆでたじゃが芋とともに供された。
ニシンとポテト、
このコンビネーションがまことに卓抜。
互いの魅力を引き立て合う。

ところが予期せぬ弊害をまたもや生んでしまった。
レディースの飲むピッチが余計に上がってしまったのだ。
何かメインディッシュを供給しなければ―。

ここでJ.C.、つらつらと思い浮かべる。
前述した通り、ロシア人は酒を飲むときに温かい料理を好まない。
よってメインは外国由来の料理が多い。
ロシア料理店における三大メインは
フランス人の料理人が発案したとされるストロガノフ。
ウクライナのキエフ風カツレツ。
グルジアのシャシリク(バーベキュー)ではあるまいか?

それぞれビーフ、チキン、ラムと
上手いこと棲み分けが成されている。
ただし一般的ロシア庶民の口には
まずなかなか入らない高級食材だ。

考慮の末、ストロガノフとシャシリクを一皿づつお願いした。
すると調子をぶっこいた女郎衆、
今度はワインが欲しいとのたまうでないの。
いったいこのあとどんな幕切れが待っているのだろう?
「とらや」のおいちゃんじゃないが、オラ、知らねェ!
女が強くて男はつらいよ、いや、ジッサイ。

=つづく=