2016年5月24日火曜日

第1366話 狸が呼んでるそば屋 (その1)

コヤツに初めて逢ったのはかれこれ5年前。
JR駒込駅東口から商店が軒を連ねる、
アザレア通りを南下していてばったり出くわした。
一般的な信楽焼きとはちと違う
「大和屋」なる日本そば屋の店頭である。
もともと狸は好きな動物なんだが
殊にそのときはヤツがくわえるプラカードに目がいった。
写真だと細かくて読みづらいので書き改めてみる。

 小エビと玉ねぎのかき揚げせいろ(2ヶ付) 650円
 2ヶの内1ヶ使用 プラス100円で半ライスのかき揚げ丼

強く印象に残ったことだった。
何せ、小エビのかき揚げは好物。
桜海老のかき揚げとなったら大好物だもの。
もし小エビじゃなくって桜海老だったら
おそらく1週間以内に出向いて行ったろう。

桜海老ならずとも750円でもりそばに小エビかき揚げ1ヶ。
さらに1ヶのかき揚げ丼とあらば御の字もいいところ。
近いうちに行かねば、行かねば、イパネマの娘と思っているうち、

 月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり

アッという間に5年の歳月が流れてしまった。
いつしか「大和屋」のことも店頭の狸のことも、
すっかり忘却の彼方に消え去ったのだった。

それがある日、旧友にして盟友のP子から1通のメールありけり。
鎌倉在住の彼女、当地のとある天ぷら屋で
食した小柱のかき揚げにいたく感動した様子。
ちなみに小柱はアオヤギ(バカ貝)の貝柱のこと。

メールは
”その店でごちそうするから、乞う、鎌倉来訪!”
で結ばれていた。
招待はありがたいけど、そうおいそれとは行ってられない。
まあ、秋風の立つ頃には遠征してみようと思う。

そんなことより、このメールのおかげで
突如、「大和屋」の狸を思い出したのであった。

 ♪   思い出したんだとさ
   逢いたくなったんだとさ
   いくらすれても 女はおんな
   男心にゃ わかるもんかと
   沖のけむりを 見ながら
   あゝ あの娘が鳴いてる 波止場 ♪
         (作詞:高野公男)

三橋美智也の「あの娘が泣いてる波止場」は1955年のリリース。
昭和を代表する歌手の実質的デビューはこの年であった。

=つづく=