2016年5月31日火曜日

第1371話 北区の旅人 (その1)

狸の読んでるそば屋をあとにした二人。
足の向くまま気の向くままに歩き始めるのも何だか無節操。
とにかく夕暮れどきには
どこか居心地のよい酒場にたどりついていたい。
陽が傾くまでかなりの時間を要するから
そこそこ距離を出しておきたい。

つらつらと思うがままに浮かんだのは三つの方向。
下記の如くであった。

① 町屋から北千住
② 王子から赤羽
③ 白山から神保町 

①ならば行き着く先は「大はし」か「永見」
②だったら「まるます家」あるいは「八起」
③の場合は「たこ八」または「ランチョン」
といったところであろうヨ。

店々を思い浮かべているとそれぞれの名物メニューが
脳裡の中の横断歩道を順番に渡って行った。
さすがに渡るときに手は挙げなかったがネ。

方角が異なるため、
すぐに決めないと最初の一歩が踏み出せない。
道端に棒っ切れでも転がっていてくれりゃ、
映画「用心棒」の三船敏郎扮する桑畑三十郎よろしく、
宙に放り投げもするが今の世の中、
棒切れどころか石コロ一つ探すのにも苦労する。

そこで相方に委ねることにした。
足立区・北区・千代田区の三択でお願いすると、
ヤッコさんが選んだのは北区であった。
またその言いぐさがいい。
「北区で飲んでから帰宅するっ!」だとサ。
すかさずJ.C.
「オババギャグはおやめ!」
「アナタにだけは言われたくないことヨ」
「ハイ、すんまそん」

駒込駅方面に歩み始める。
途中、少々迂回して田端銀座へ。
商店街をゆくのは楽しいけれど、住宅街は面白くも何ともないからネ。
殊に田端銀座は昭和の匂い立ち込めるのんびりストリート、
相方の好奇心を刺激もするし、
何より仲良く歩けば「二人の銀座」だもの。

ここで和泉雅子と山内賢の一曲を披露したいが
グッと我慢の子を決め込む。
われながら日々成長していることの証しといえよう。

=つづく=