2016年5月19日木曜日

第1363話 あの味がよみがえる (その7)

ラムももローストに付合わせのじゃが芋まで完食したので
あとはデザートでおしまいにしようと
意見の一致をみたものの、
最終確認のため、またまた料理ボードに向かう。

まだ未食のフカヒレ入りラーメンとビーフカレーがちと気になる。
気になりはしたが、もはや身体が受けつけてくれない。
「ムリだよなァ・・・」―そうつぶやくと
「そうねェ、限界だわねェ」―あきらめの応えが返ってきた。

「昔よく食べたカレーはいっときたかったな」
「う~ん・・・」
「いや、ムリ、無理」
「う~ん・・・ムリじゃないっ!」
「エッ?」
「いきましょう、ついでにフカヒレも!」
「ゲッ!」

土壇場になるとオンナは強い。
よってライスを少なめによそい、カレーも控えめにかけた。
フカヒレラーメンは担当のオネエさんに麺半分でお願いした。
懐かしのカレーライス
あゝ、あのの味がよみがえる。
ホテル特有の風味が勝つカレーにとうとう胃袋が押し切られた。
さらに白鵬ならぬフカヒレにも土俵の外でダメを押された。
哀れJ.C.、黒房下にもんどり打って転げ落ちの巻である。

そうしてこうして千秋楽を迎えた。
対戦相手はデザートのスペシャリティ、ベイクド・アラスカだ。
ボンブ・カッサータ・シチリアーナ(シチリア風アイスクリーム)を
メレンゲで包み、焼き上げたものである。
このホテルのアイスは28年ぶり
確か友人の結婚披露宴が最後だったと思う。
かくも長き月日を経てもベースの風味は変わることがない。
いやはや率直な驚きを覚える。

ブラックコーヒーを飲み終えて
お勘定は2万円でオツリがきた。
食事が12000円、飲みものが約7000円の計算になる。

夜はまだ浅い。
大門か浜松町辺りの飲み屋という選択肢があるものの、
居酒屋系はもうインポッシブル。
つまみどころか突き出しにすら箸先がのびない。
よってホテルのメインバー、「ウインザー」へ流れた。

あちらホワイトレディ、こちらサイドカー。
カクテルグラスを合わせるうちに
芝公園の夜は更けてゆく。

=おしまい=