2016年5月10日火曜日

第1356話 五月のそよ風 (その3)

今年もよい季節がやって来た。
街を歩いていて、とても気持ちがいい。
入浴にしたってバスタブに湯を張る頻度が減り、
シャワーだけで済ますことが増えた。

毎晩、腕まくらをせがむ愛人、
もとい、愛猫も今では
飼主の上半身から下半身にその居場所を替え、
向こうずねにアゴを乗っけて”爆睡”している。
くぬっ、オメエは中華猫か!
ったく、平和なヤツよのぉ・・・。

おっと、キャットじゃなくってチキンでありました。
松戸にあるチキンの殿堂「鳥孝」で一酌に及んでいる。
気分を変えてビールからホッピーに切り替えた。
周りを見渡すと、ホッピーを飲む客きわめて多し。
若いカップルの中には
注しつ注されつの仲良しコンビまでいる始末だ。

ふ~ん、とうとう娘ッ子がホッピーを飲む時代になったか―。
何となく感慨深いものがある。
まっ、カシスソーダを飲む乙女よりも
ナンボかマシではあるけどネ。

焼き鳥は4本で切り上げ、
赤字表示の揚げたて厚揚げというヤツを所望した。
振り返ると居酒屋ではずいぶん厚揚げのお世話になっている。
冷奴より好きだ。

ものの5分も経たないうちに揚げ立てが登場した。
揚げ立てだから”焼き”は省略されている。
箸を入れた瞬間、
閉じ込められていた湯気がふんわ~っと立ち昇った。

そのまましばらく置き、冷ましてから口元に運ぶ。
むむっ・・・、ややっ・・・、独特の風味が鼻腔を抜けた。
チキンの殿堂だけにチキンの匂いがするじゃないのっ。
はは~ん、これは唐揚げと一緒の鍋で揚げたせいの移り香だネ。
偶然の賜物かもしれないが、こういうのも特徴的でいいかもしれない。

せっかくだから、匂いの元の唐揚げを追加した。
鳥唐揚げは(並)と(上)があって
(並)は骨つき、(上)は骨抜きなのだ。
ここは食べやすい骨ナシでゆく。

上唐揚げはチキン自体もさることながら付合わせがぜいたく。
マヨネーズを添えたきゅうりのスティックに
フレンチ惣菜の定番、キャロット・ラペ風ニンジンも盛込まれていた。
ホッピーの中(焼酎)をお替わりしてお勘定。

このまま帰路に着く気にもなれず、
そよ風に誘われるように江戸川へ向かう。
途中、コンビニで買ったワンカップの樽酒を
土手でしみじみと飲んだ。
西空を見上げると、またしても頭の中を
三波春夫の「大利根無情」がグルグル回り始めただヨ。

=おしまい=

「鳥孝 松戸店」
 千葉県松戸市本町19-21
 047-362-7378