2016年6月3日金曜日

第1374話 北区の旅人 (その4)

十条の町にやって来た。
ビールをがほしくなって町のランドマーク、
「斎藤酒場」に立ち寄ると、まだ開店前。
店先にはすでにせっかちな仕掛け人が
何人か手持無沙汰に列を作っていた。

致し方なく、すぐそばの「天将」に回るつもりでいたら
「ワタシ、東十条って、行ったことないなァ」―相方がつぶやいた。
このツイットはそこへ連れてゆけという暗黙の命令。
つき合いが長いから心の内はお見通しだ。

ふむ、東十条ねェ・・・。
町の活気を比較したら商店街が縦横に走る十条の圧勝ながら
東十条にもそれなりの佳店がポツリポツリと散在している。
目的地の赤羽へは迂回を余儀なくされるけれど、
それもまたよしとしようか―。
第一、早いとこビールにありつくのには近いほうがいい。
ニアラー・イズ・ベターなりけり。

よって進路を北から東に変更した。
十条と東十条を一直線に結ぶのは演芸場通りの商店街。
名前の由来は通りの中ほどにある1951年創設の篠原演芸場だ。
このストリートは歩いていて楽しい。
演芸場とほぼ同じ歳月を生き抜いてきた居酒屋「田や」に
よほど入店しようと思ったが後ろ髪を引かれつつもソデにした。

そうしてこうしてたどりついたのが
花は越後の新潟県、ならぬ「新潟屋」だ。
近所の「埼玉屋」の焼きとんは抜の群ながら
界隈きっての人気店につき、飛び込みではまずムリ。
しかもサク飲み不可というのが使い勝手を損なっている。
何となれば、ウルサいオヤジがコースを頼まぬと機嫌が悪いし、
下戸なんか直ちにたたき出され、挙句の果ては塩をまかれる。
というのは冗談だが、たたき出されるところまでは真実。
お~、コワッ!

「新潟屋」のカウンターはほぼいっぱい。
二人並んで席に着ける余裕はなかった。
そこを店のオバちゃんが常連さんをスクイーズ、
何とかスペースを作ってくれた。
「新潟屋」のオバちゃんは「埼玉屋」のオヤジと真逆だネ。

カチンと合わせたコップ(あえてグラスとは呼ばない)の
スーパードライが日光は華厳の滝の如くノドを落下していった。
ングングッ、いや、たまんないねェ・・・。
互いに大のビール好き、この瞬間は目と目で会話ができる。

突き出しは大根と人参の浅漬け。
これは少量ながらフリー・オブ・チャージ。
シャシアシャアと愚にもつかない有料チャームを
押っつけてくる今風の、殊にチェーン居酒屋には猛省を促したい。

つまみは真っ先にもつ煮込みと思ったものの、
小二時間ちょっとの散歩では
昼めしの消化を胃袋が成し切れていない。
はて、何を注文するかのぉ?

=つづく=