2016年6月7日火曜日

第1376話 北区の旅人 (その6)

東十条の「新潟屋」にてハイボールの2杯目も半ば。
相方もやや遅れて2杯目を注文したところだ。
焼きとんのシロとレバーが旨い。
野菜嫌いではけっしてないが串焼きは豚もつに如くはない。

百獣の王ライオン(本当はトラのほうが強いけど)に限らず、
ヒョウだってチーターだってジャガーだってピューマだって
猛獣は獲物をしとめたら、まず内臓(もつ)から食べ始める。
旨いし、柔らかいし、栄養豊富だし、
畜生のほうがわれわれ人間より賢い美食家なのだ。

飲食中、携帯電話が鳴ったので表に出ると、
ようやく宵闇がせまってきている。
そろそろ次に移動することにしよう。
店内に戻り、ボールを飲み干し、会計を済ませ、
赤羽に向けていざ、シュッパ~ツッ!

店を出たら進路を左へ。
環状七号線を渡って赤羽東本通りを直進すると
15分で到着するが何となく面白くないから
さっき来た坂を上り、跨線橋を渡り返して北上する。
線路を挟んで東は低地、西は台地、かなりの高低差だ。

途中、清水坂公園で一休みしてから
赤羽西口本通りを真っ直ぐ、
到着したときはさすがに初夏の日も暮れていた。

赤羽は帝都のはずれ。
この先、荒川を渡河すれば埼玉県・川口市。
かつてキューホラのある街として
日本中にその名をとどろかせた一帯である。
まだうら若き吉永小百合の笑顔とともに―。

あまり知られていないが
赤羽は敗戦まで都内随一の軍都だった。
軍需工場は不眠不休で24時間、フル稼動していた。
よって夜勤明けの労働者のために
多くの大衆食堂や大衆酒場が早朝から営業していた。
その名残りが今でもある。

西陽が残っていれば荒川と隅田川の分岐点、
岩淵水門辺りの散策が一興なれど、
日暮れてしまったら、そう呑気に構えてもいられない。
狙い定めた酒場「まるます家」に直行である。
この店はもともと川魚専門店。
毎朝、店頭で鯉や鰻をさばく光景に道行く人々の目が留まる。

下町を徘徊のピッチとするわが身には珍しくもない川魚だが
古都・鎌倉在住の相方には目先が変わっていいんじゃないか―。
鯉のあらいと鰻の蒲焼きであらためて飲み直す腹積もりだった。

=つづく=
 
「新潟屋」
 東京都北区東十条2-14-18
 03-3914-6630