2016年6月1日水曜日

第1372話 北区の旅人 (その2)

田端銀座を歩き流してゆく。
レトロなパン屋に惣菜屋、おでん種専門の練り物店、
格安の揚げ物店、昔ながらの青果商、近代的なスーパー、
それに同じ「銀座」でも江東区の砂町銀座に本拠を置く鮮魚店と、
多種多彩な商店が軒を連ねている。

狸の「大和屋」は文京区・本駒込だったが
徒歩数分の距離にある田端銀座はすでに北区。
もはや二人は北区の旅人となったのだ。
 
♪   たどりついたら 岬のはずれ
  赤い灯が点く ぽつりとひとつ
  いまでもあなたを 待ってると
  いとしいおまえの 呼ぶ声が
  俺の背中で 潮風(かぜ)になる
  夜の釧路は 雨になるだろう  ♪
       (作詞:山口洋子)

裕次郎の「北の旅人」は1987年8月のリリース。
彼の死の翌月のことである。
生前、愛してやまなかったハワイのスタジオで
レコーディングされたこの曲が遺作となった。
そして8月24日にはオリコンチャート1位に輝き、
裕次郎の楽曲で唯一の1位を獲得したのだった。

岬のはずれならぬ銀座のはずれ、
パンの「かわむら」でP子ファミリーのために食パンを買ってあげる。
ここのパンは抜の群に美味しい。
彼女の母上は大のパン好きだからネ。
もっとも日本の女性は十中八九、パンがお好きか―。

田端銀座を通過してアザレア通りに戻る。
この通りはちょうど北区と豊島区の境界線となっている。
JR駒込駅東口のガードをくぐり抜け、ほどなく霜降橋の交差点。
道なりに本郷通りを上ってゆけば
バラで有名な旧古川庭園に達するが
そちらではなく、霜降銀座の商店街を進む。
庭園より商店なのである。

霜降銀座に足を踏み入れてすぐ、
田端銀座にも出店している砂町銀座の鮮魚店がここにも。
紛らわしいので店名を明かすが
180店舗にも及ぶ砂町銀座の商店において
もっとも有名な「魚勝」ではなく、「魚壮」のほうである。

店舗数はそれほど多くないが
いくつかの青果商では珍しいものに出会える。
めったにお目に掛からぬハヤトウリを手に入れたこともあった。
ちょっと場違いな感じすらする、スーパー サカガミでは
稀少なイタリアワインを調達している。
徐々に閑散さが増してゆき、商店街はプツリと途絶えた。

=つづく=