2017年7月17日月曜日

第1667話 策に溺れた小肌酢 (その2)

浅草の観音裏にいる。
目の前のバス停には奥浅草のパネルがはめ込まれている。
2年ほど前だったか、唐突に停留所名が変わった。
以前は浅草三丁目だったハズだ。
 
ところで東京都内最古のお寺は金竜山浅草寺。
ご本尊が観音菩薩ゆえに
親しみをこめられて観音さまとも呼ばれる。 
 
        さあさ着いた 着きました
     達者で永生き するように
     お参りしましょね 観音さまです 
     おっ母さん ここがここが浅草よ
     お祭りみたいに にぎやかね    
         (作詞・野村俊夫) 
 
小節の効いた千代子姐さんの美声が
列島を席巻したのは昭和32年。
戦後の復興がほぼ成されんとする頃だった。

不朽の名曲「東京だよおっ母さん」では
田舎から上京して来た母親を娘が案内して
東京見物をさせる姿が情感たっぷりに描かれる。
戦死した娘の兄は靖国神社にねむっている。
二重橋では天皇陛下に、九段坂では英霊たちに、
こうべを垂れ続けた末、ようやくたどり着いた浅草。
ここで初めて自分たちのささやかな幸せ、
達者で永生きするようにお参りするのであった。

聴くものは誰しもいつしか二人の将来に
幸多からんことを祈らずにはいられない。
島倉千代子のナンバーではこの曲がマイ・ベストだ。

さて、当夜の二人は言問通りを東に向かった。
このまま進めば隅田川に架かる言問橋に到達する。
こまどり姉妹の「浅草姉妹」を披露したいところなれど、
さっき、お千代サンにご登場いただいたばかり、
ここは自重せざるをえませんな。

言問橋のはるか手前、
ちょうど観音堂の裏辺りに居酒屋の灯りが見えてきた。
半世紀をゆうに超えて暖簾を掲げる酒場「さくま」である。
観音裏の深いエリアに沈もうと思ってはいたものの、
名代牛すじ煮込みで飲りたくなった。
よって速やかに入店の巻。

おう、おう、店内は活気に満ちていた。
入口に一番近いカウンターの隅に
2席空いていたのでそこへ促される。
止まり木に止まれさえすれば、ほかに何の不満があろう。
二人、素直に着席と相成りました。

=つづく=