2017年7月27日木曜日

第1675話 上野発の私鉄電車 (その2)

夢に出てきた居酒屋は
柴又駅前の小さな広場に面した「春」。
調べてみたら訪れたのは15年も以前のこと。
堀切菖蒲園の「きよし」のあとに寄っている。
当時は店主とママと、記憶が定かでないが
確か、娘さんがお手伝いという感じだった。

常連たちに挟まってわれわれ二人、けっこう長居した。
なぜかママがツレを気に入ってくれて
帰る際には柴又駅のホームまで
見送りに出てきてくれたりもした。
夢のおかげでそんなことが思い出され、
つい懐かしくなって訪問を決断した或る土曜日の朝である。

久方ぶりにやって来た柴又。
駅前広場には寅さんの像から少しく離れて
オニイちゃんを見送るさくらの像が新設されている。
反論を怖れずに言わせてもらうと、
ここの寅さん像はあまり好きではない。
どこか暗くって、悪人的雰囲気が漂って
渥美清のイメージではない気がする。

新しいさくら像も倍賞千恵子にちっとも似てないし、
幸薄い乙女といった印象がつきまとう。
別れのシーンだから二人揃って
ニコニコ笑顔というわけにはいかないだろうが
明るさがまったくないと、見る者は救われない。

「春」の店先には椅子とテーブルが配置され、
いかにも観光に訪れたというふうな若いカップルが
氷入りの飲みものを楽しんでいる。
おそらく酎ハイだろう。

店内のカウンターには空席が二つのみ。
引き戸に近い一番端に着席した。
カウンターの中にはママとその娘。
15年も経っているのだ、
二人ともそれなりに歳を重ねている。
店主の姿が見えないけれど、
経緯を訊くことなんかできやしない。

ビールの大瓶をお願いしたとき、
ママと視線が交差したが、そりゃ覚えちゃいないわな。
別段、言葉を交わすこともない。
コップに自酌して一気にあおった。
ク~ゥッ、たまらん。

銘柄はキリンラガーながら
灼熱のウォーキングを敢行したあとのこと、
身体が生き返るようだ。
突き出しは竹の子の煮たのである。
さて、何か1品、つまみの所望とまいろうか。

=つづく=