2017年7月19日水曜日

第1669話 策に溺れた小肌酢 (その4)

観音裏の「さくま」にて。
煮込みのあとにわれわれが選んだのは
小肌酢と手羽先焼きだった。
前者はJ.C.、後者は相方のチョイスである。

手羽先は嫌いじゃないけど、あまり好まない。
(そんなん自分ちで焼いて食えや)
言葉を飲み込み無言でうなずき、オーダーを通す。
とにかく手羽は手が汚れるし、食べにくいからネ。

これが蒸し上げた毛蟹だったりすると、
大好物でもあり、全身全霊をかたむけて挑むから
手がべたつこうが指の腹が傷つこうが
いっこうにかまわず、没頭するんだ。
われながら勝手にしてわがままなものよのぉ。

まっ、手羽はそれなり。
むしろがっかりしたのはおのれが頼んだ小肌であった。
絣模様はそんなに大きくもなく、
巨肌に非ずして、何とか小肌のカテゴリーに属している。

問題だったのはその仕事ぶり。
酢漬けというか味付けである。
一切れ口元に運んで驚愕した。
ん・・・? ややっ!
「太陽にほえろ!」のジーパンじゃないが
何じゃこりゃあ! だったのである。

漬け酢を脇に押しのけて
かつお節のダシが効いている。
いや、効き過ぎている。
煮ても焼いても食えないサカナ、
小肌に必要なのは酢と塩だけだ。
せめて砂糖は許せるが、ダシはダメでしょ。

まぐろを凌駕するとまでは言わないまでも
江戸の昔から続く鮨屋の花形がこの青背。
どこの鮨屋がこんなシゴトをするだろうか。
策士、策に溺れるとはまさにこのことだ。

作り手は土佐酢の要領のつもりだろうが
食べ手のほうは大迷惑。
とにもかくにも生まれて初めてダシに犯された小肌に遭遇。
小肌本体が悪くないだけに残念ながら
とてもとても完食はできない。

言問通りを渡り返し、
折からやって来た日暮里行きのバスに乗る。
時間もまだ早いことだし、
コリアンのママのいるスナック「Y」で
飲み直しを目論むのでありました。

=おしまい=

「さくま」
 東京都台東区浅草3-4-2
 03-3876-4752