2017年7月28日金曜日

第1676話 上野発の私鉄電車 (その3)

柴又駅前の「春」にいる。
かつて寅さんこと渥美清が訪れた店である。
撮影の合間に酒を飲まない渥美が
ここで納豆オムレツを食べたという。
それは15年前にママから聞いた。

数片の竹の子だけで大瓶がカラになり、
下町酎ハイだったかな?
そんなネーミングの酎ハイに切り替える。
あまり特徴とてないフツーの口当たりだ。

熟慮の末、ハムカツを注文。
即座に横から「ハムカツこっちも!」の一声。
オジさんたちはこういうのが好きなんだねェ。
揚がってきたハムカツはハムを2枚重ねてあった。
脇にはナポリタンみたいなケチャスパと
刻んだレタスが添えられている。
ハナから厚めのハムを揚げりゃよさそうに思うが
スーパーで買ってきたパックだとそうもいくまい。
味のほうはマアマアで秀でてなくとも不満もない。
ちなみに揚げもの担当は娘さん。
揚げもの限らず、調理全般を仕切っているようだ。

ドリンクメニューの短冊に毒りんごハイを発見。
ゲッ! 毒りんごでっか?
何が入ってるのか知らんが試してみるか・・・。
ここで配合物を詳しく訊ねるような無粋なマネはしない。
たとえ問いかけても「ヒ・ミ・ツ!」、
そう返されてウインクの一つももらうのがオチだ。
おまけに周囲の常連の失笑を買うに決まっている。

その毒りんごは何やら黄色っぽいとうか、
オレンジ色が混じっているというか、
少なくとも黒や青や紫といった、
毒物を連想させる色ではない。
一口飲み下すと甘みが舌に拡がった。
どちらかというと女性向きである。
あまり時間をかけずに飲み干して酎ハイに戻し、
同時に行者にんにくをお願いした。

行者にんにく、別名アイヌネギ。
山菜の中でもわりと高山で採れ、
自生しているのは自然保護区がほとんどだそうだ。
30年以上も前、
長野の善光寺境内で売られているのを見たことがある。

小鉢に盛られた行者にんにくは醤油漬け。
これがまた、しょっぱいのなんのっ!
どんぶりめしでもなけりゃ、とても食べ切れるものではない。

柴又駅でトイレを借用し、帰路へ。
そうだった! 「春」にはトイレがなく、
駅員さんに店名を告げて借りたのだった。
きっと、今でもそうなのだろう。

=おしまい=

「春」
 東京都葛飾区4-8-16
 03-3657-3518