2017年9月11日月曜日

第1697話 一日違いの土用丑の日 (その3)

東京随一の仏壇タウン、稲荷町に来た。
いえ、仏壇を買いに来たんじゃなくて
上野からついフラフラと散歩がてらに―。
この先の田原町はちょくちょく訪れるが
飲食店より仏具店の勢力が優る稲荷町は
常々、スルーしてしまっている。

ちょうど空腹感に見舞われたことでもあるし、
界隈で適当な店を物色するとしよう。
入ったことはないけれど、
駅のそばにフレンチスタイルのラーメン店があるハズ。
試してみてもいいなァ・・・
そう思ったところで、一軒の天ぷら屋を思い出した。
江戸前天丼の「天三」である。

入谷にも同名店があるが相互関係は知らない。
天ぷらの姿・カタチも揚げ方も異なるし、
肝心の価格設定が段違いだから
おそらくつながりはないだろう。

稲荷町の「天三」は古き良かりしたたずまいを見せていた。
通りすがる人々をやさしく手招きするかのようだ。
こうなったら
 フレンチラーメンさようなら、江戸前天丼こんにちわ
であろうヨ。

店先に
 本日 土用丑の日
貼り紙がしてあった。
あれェ、今日がそうだっけ?
この日に鰻を食べる習慣がないから
まったく頓着していなかった。
ふ~ん、丑の日ねェ。

敷居をまたいでカウンターに着席する。
丑の日限定の鰻かと思ったら普段も提供しているようだ。
浅草あたりには天ぷら・鰻を両方手掛ける、
時代遅れの総合和食店がいまだに残っているが
そのほとんどがどっちつかずで
あまりいい思いをした覚えがない。
ここは迷わず天丼でしょ。

しかし、人間の気持ちというのは判りませんな。
殊に移り気なJ.C.のことですからな。
べつに自己弁護するわけじゃありやせんが
土用丑の日に天ぷら屋に飛び込んだのも何かの縁。
その天ぷら屋が鰻を扱っているのも何かのお導き。

「すいません、鰻重一つお願いしまあす!」―
と相成りましたとサ。

=つづく=