2017年9月19日火曜日

第1703話 浅草カーニバルの夜 (その4)

「美家古寿司」における江戸前にぎり二人旅も終盤。
’70&’80年代の「美家古」にはなかった鮨種、
縞あじを目の前にしている。
親方に
「ケ・ス・ク・セ?」
と訊ねた行きがかり上、
やはりいっとくか、と相成りやした。

よって13、14カン目は縞あじ&かつお。
青背のうち、縞あじはもっとも淡白にしてデリケート。
当夜いただいたにぎりでは
これのみ生のまんまのシゴト抜き。
美味なるサカナにつき、これはこれでよし。

外見だけでは判らず、
捌いてみないとモノの良し悪しが判明しない、
いわゆる鮨屋泣かせの筆頭魚、
かつおは世にありがちな血生臭さとはまったくの無縁。
まことにけっこうだ。
ここにニンニクのスライスがあったらなァ・・・
無いものねだりの巻である。

15、16カン目は本日の主役、穴子。
これだけは2カンいただいた。
まずシモ(下半身)は煮切りで。
そしてカミ(上半身)は煮つめで。
甲乙つけがたく、これぞ東京一の穴子と言い切ってはばからず。
沢煮にしたところを直火でサッとあぶる手法は
穴子に独特のプリプリ感を残して旨みの極致をおびき出す。

最後の17、18カン目はまぐろづけ&玉子。
まぐろは生より断然づけだろう。
殊に夏の本まぐろは酸味さわやかにして舌の上に涼を呼ぶ。
冬のまぐろが寝乱れた襦袢の大年増なら
夏のそれは襟を正した制服の処女である。
 
焼き目鮮烈な玉子は1カンに包丁が入って2ピース。
酢めしの上に二つ折りの玉子焼きが屋根のようにかぶさる、
その姿はミニチュアの合掌造りの如し。
玉子を食べねば「美家古寿司」の夜は終わらない。

そうしてこうしてお腹はいっぱい、イッパイ。
腹十二分目に達している。
にもかかわらず、締めにかんぴょう巻である。
さすがに1本をどうにか分け合って決着をみた。

いやあ、こんなに食べたのは何年ぶりだろうか!
ここ数年は大食した記憶がまったくないもの。
漁色に興味のないわが身ながら
漁食の愚をあらためて恥じ入る次第なり。

=おしまい=

「弁天山美家古寿司」
 東京都台東区浅草2-1-16
 03-3844-0034