2017年9月22日金曜日

第1706話 松本清張を読み返す

ここ数週間、松本清張をしきりに読んでいる。
再読の作品もるが、ほとんどは初読である。
「半生の記」、「影の車」、「途上」、「鬼火の町」、
「不安な演奏」、「喪失の儀礼」と、
エッセイ、連作短篇、短編集、推理モノ、時代モノ、
何でもアリだ。

しっかしねェ、「半生の記」をのぞいて
厳しく評価すれば、凡作、駄作の山であった。
過半が昭和30年代半ばに書かれたもので
作者は多忙を極めていた時期である。

昭和20年代半ばに「西郷札」、「或る『小倉日記』伝」で
文壇に登場した清張だが
広く世に知られ、読まれるようになったのは
昭和32年に発表された社会派推理小説の嚆矢、
「点と線」以降であろう。

連載を何本も抱えて締切に追われ、
推敲が浅く、文体もザツで
キズや欠点だらけの作品が量産されてしまったわけだ。
そんなこんなを考慮しても読み手には不満が残った。

共通するのはオチの稚拙さ。
その点、池波正太郎、藤沢周平、山本一力、浅田次郎など、
そのときどきの流行作家にキズはほとんど見られない。
清張の作品群が他山の石として効能を発揮したのかもしれない。

直近、手に取った「不安な演奏」と「喪失の儀礼」はともに
布田や調布、そして深大寺など
西東京エリアが舞台となっている。
新宿―八王子間を結ぶ京王線沿線の土地である。

わが身を振り返ってふと思ったのは
京王線を利用する頻度がずいぶんと低いことだった。
同じ新宿起点の小田急線と比較してみたら
その差は歴然であった。

深大寺が舞台となると、
第一感は原作・映画ともに気に入りの「波の塔」。
ヒロイン役の有馬稲子、脇の桑野みゆき、
どちらも大好きな女優だからネ。

そうだ!
調布・布田界隈を歩いてみよう。
歩くといっても居心地よさそうな酒場の探訪が
第一の目的だが、とにかく行ってみよう。
そう思って東京都23区のシティマップル、
その巻末にある首都圏鉄道路線図を開いた。
不満の残った清張作品ながら
ここに怪我の功名が生じたのだった。