2017年10月11日水曜日

第1719話 鰻や穴子の舞踊り (その4)

そんなわけでジモティのH谷サンに
自由が丘のランドマーク「金田」は初訪問だった。
よってトラウマとはいえないまでも
敷居はかなり高いものがあったらしく、
少なからず所作にビビりが感じられる。
それもあと1~2杯飲めば霧消するんだろうがネ。

あらためて店内を一望する。
カウンターの中で接客を担当するのは
相変わらず母娘と思しき女性二人。
どちらもなかなかの貫禄である。

ここで思い起こすのは豊島区・大塚の「江戸一」。
都内屈指の、いや、都内随一の酒場と断言しても
過言ではない、あの「江戸一」だ。
あちらの大女将は引退してしまったけれど、
娘の若女将が立派に仕切っており、
母の不在を補って余りある。

何かつまみをいただこう。
相方をうながすと関あじの刺身を選択。
関あじは言わずと知れた大分県・佐賀関で
水揚げされる豊予海峡の瀬付きアジだ。
房総の黄金アジ同様に
アジは回遊しないほうがより美味とされる。
確かに香りさわやか、コリコリの食感も快適だった。

せっかくの関あじだから清酒への移行を考えたが
すでに2杯飲んできたので自重する。
赤星の追加とともに、もってのほかをお願いした。
もってのほかは山形特産の食用菊。
紫色が特徴で黄色のものより珍重される。
確かに紫の食味のほうがまさっているように思う。
これは三杯酢で供された。

このとき、若女将が相方にひと言。
「恐れ入りますが、お帽子とっていただけませんか?」ー
H谷サンはハンチングを愛用しており、
そこを鋭く衝かれたのだった。

こりゃ「江戸一」より厳しいぜ。
思いも掛けぬローカル・ルールであった。
帽子を脱いだことのない吉田類さんなんか
出入り禁止だネ、この店は―。

まっ、それはそれとしてさらにもう一品。
マークしていた海胆の煮凝りが見当たらないので
穴子の唐揚げを所望した。
鰻を食べてきたのにわざわざ親戚筋の穴子である。
バッカじゃないの? 
かように揶揄する向きもありましょう。
でもネ、互いの違いを比較するには
なかなかの妙手なんですぜ。

=つづく=