2017年10月18日水曜日

第1724話 サンマの紹興煮 (その2)

自宅のキッチンで新サンマを煮ている。
第一感は塩焼きだった。
大根おろしを添えて酢橘を搾れば
舌上を秋の味覚が駆け巡ること必至なれど、
一ひねり加えて有馬煮ならぬ、
紹興煮とシャレ込んだのだ。

ちなみに紹興煮とはJ.C.の勝手なネーミング。
どんな料理本を開いてもこんなのは掲載されていない。
四川料理の麻婆豆腐に使用される花椒は
華北山椒とも呼ばれる。
よって四川煮、あるいは華北煮のアイデアが浮かんだものの、
浙江省・紹興市の特産、紹興酒が重要な役割を担うため、
紹興煮とした次第だ。

フライパンの煮汁が煮立ってきた。
上(カミ)と下(シモ)2片のサンマを静かに並べ入れる。
煮魚は引っくり返すな! 
巷間そう伝わるが、あえて逆らい、5分ほどで裏返す。
そうしておいて落とし蓋である。
木製のモノなどないからアルミホイルの即席蓋で間に合わす。

最弱火でおよそ15分。
汁気がなくなってきたら花椒を散らして火を止める。
いや、実に簡単なのだ。
テーブルに運んだら刻んだ香菜をこんもりと盛り付け、
おもむろにいただく。
もちろん淡白なシモのほうからネ。

あっ、そうそう、香菜というのはパクチーのこと。
いつの頃からかシャンツァイが
パクチーと呼ばれるようになった。
おそらくここ20年ほどの間だろう。
昭和の後期に朝鮮漬がキムチに
取って代わられたのと同じ現象と言えよう。

サンマの合いの手にはもちろん紹興酒である。
ちなみに自宅にあったのは近所のスーパーで購入した、
塔牌・花彫<珍五年>なる安物。
ラベルには
 日中国交正常化が成立した1972年より
 紹興酒を取扱う宝酒造が品質管理を行い、
 輸入販売している信頼のブランドです
とある。
あまり美味しい紹興酒ではないが思い出すなァ、
田中角栄と周恩来のあの固い握手を―。

ワタの詰まったカミには舌先を変えるため、
五香粉(ウーシャンフェン)を振って味わった。
主に八角と丁子が主張するこのスパイスは
一家に一瓶備えておくと便利だ。
たった一振りであら不思議、
本格的な中華の香りだけは楽しめます。