2017年10月16日月曜日

第1722話 名月とザザムシ (その2)

10月4日の朝日新聞・朝刊の記事。
浅田次郎氏の語るこの部分に括目したのだった。

亡くなった時、僕は諏訪の温泉にいました。
出てくる食べ物が蜂の子、ザザムシ、馬刺し、桜鍋。
一切駄目。
女将に、変えられますかって。

信州特有の食べもの満載である
語り手が一切駄目な蜂の子、ザザムシ、馬刺し、桜鍋。
J.C.はみなOKだが唯一、ザザムシだけは得意としない。
かと言って駄目ではけしてない。

ザザムシとは何ぞや?
カワゲラやトビゲラの幼虫のことで、いわゆる水生昆虫だ。
天竜川の上流域、南信・伊那地方の特産として知られている。
J.C.は同じ信州でも長野市生まれだから北信の出身。
蜂の子・馬肉には幼少の頃から親しんでいるのに
ザザムシだけは見たことがなかった。
天竜川にたくさんいても千曲川には少ないのかな?

記事を目にした10月4日、この夜は中秋の名月であった。
名月とザザムシ、脳裏に閃光がピカリときらめく。
あれは十数年前。
ワイン会の仲間と月見の会を催したことがあった。

毎年、恒例の花見会では
昼間から新宿御苑に集まる呑ん兵衛たちだが
「花見があるなら月見があったっていいじゃないか」―
J.C.の発案でその年の秋、中秋の名月に狙いを絞り、
初めての月見会を開く運びとなった。

当日、仲間たちが集結したのは佃島の隅田川べり。
今年のような雲のさえぎりとてなく、
「お前はどうしてそんなに美しいの?」―
そう、月に問いかけたくなるほどだった。
酒も肴も持ち込みのいわゆるポットラック・スタイルで
J.C.はザザムシの佃煮を持参したのだ。

その1週間ほど前だったかな?
直属の部下にやはり長野生まれのH谷クンというのがいて
「オカザワさん、明日帰郷するんですが
 何か信州のモン買って来ますヨ」
「おう、そりゃありがたい、お言葉に甘えてザザムシを頼むヨ」
「ハァ~ッ?」
意味の判らぬ彼にかくかくしかじか、無事手に入れたのだった。

月見の会でのザザムシの評判は不評。
中でただ独り、アメリカからの帰国子女、K美子嬢だけが
「これ、ボルドーにけっこう合う!」
そう行って箸を止めなかったのを覚えている。

彼女はそれからしばらくして会の仲間のK一クンと電撃結婚。
新郎の任地に向かったのでした。
飛んでイスタンブール、もとい、
飛んでサウジアラビアでありました。