2018年3月19日月曜日

第1830話 雛祭りの夜 (その2)

雛祭りの夜。
入谷の「あかぎ」では蛤のみぞれスープが供された。
雛祭りにおける主役級食材のハマグリは
古くからお姫様の象徴とされてきた。
なるほど、庶民的なアサリ・シジミとは別の品格が漂う。
姫様のお味、もとい、
吸い物のお味はまことにけっこうだった。

冷酒に切り替える。
銘柄を吟味して純米吟醸原酒を謳う、
山本6号酵母というのを択んだ。
秋田県・八峰町の産は実に飲み応えがあった。
アルコール度数も高いようだ。

料理のほうはお造りでめじまぐろと平貝(たいらぎ)。
ユニークな組合せは6号酵母との相性もよろしい。
殊に本まぐろの幼魚、めじは格別。
珍しいのはこの店、
本わさびをフレーク状にすりおろすこと。
読者の方にはパスタの上から削り落とされる、
白トリュフを想像していただきたい。

エッ? ちょっと何言ってんだか判らないってか?
それじゃタルトゥーフォ・ビアンコの代わりに
パルミジャーノ・レッジャーノでいかがでしょう?
もっと判らん! ってか?
ハイ、ふんじゃパスして先をお読みくだされ。

続いては鴨つくねと蒸しあわびの葛あんかけ。
鴨が主張してあわびが陰に隠れちゃってる。
旨いっちゃ旨いが、ちと残念。
ここで日本酒の2種め。
リストにはトンデモないのが載っていた。

岩手の酒はその名もタクシードライバー。
こんなのアリ?
ご丁寧にラベルにはデ・ニーロの写真だか、
イラストだか、よく判らん顔が刷られている。

それにしても何てネーミングだい!
血迷った製造元は北上市の喜久盛酒造で
昨年発売の新銘柄である。
ところがコイツ、意に反してなかなかよかった。
少なくとも6号酵母より舌に響いたネ。

締めの一品は春巻。
おそらく鴨のつくねだろう?
そこにフキノトウ・ウルイ・行者ニンニクが
合わせてあるそうだが山菜の香りはほとんどしない。

さすがにおつまみコースだけではもの足りない。
アラカルトメニューから平貝肝のバター焼きを追加した。
何だか今夜は貝ばっかり食べてるなァ。
滅多にないことでもそこは雛祭り。
春の珍事ならぬ、春の珍味を満喫いたしたということで―。

「あかぎ」
 東京都台東区北上野2-29-3
 050-5890-6304