2018年3月30日金曜日

第1839話 変わりゆく大井町 (その5)

大井町はゼームス坂のビストロに入店。
ちなみにゼームス坂ははるか昔、
浅間坂(せんげんざか)と称して
ずいぶん急な坂道だったという。

それを明治時代に英国人技師にして仏教徒、
M・ゼームスさんが私財を投げ打って
ゆるやかな勾配に造り替えたのだそうだ。
何とも奇特な方である。

さて、カウンターに陣を取り、ワインリストに見入った。
5千円ほどのブルゴーニュ ルイ・ジャドを択ぶ。
ルイ・ジャドは創業150年の伝統を誇る、
ボーヌのネゴシアンである。

畑の名すら無い普段飲みのブルゴーニュながら
紛れもないピノ・ノワールの香りが
グラスから立ちのぼった。
本日3度目の乾杯に及ぶ。

フードはすべて相方の言うがまま。
最初に運ばれたのはズワイ蟹のマカロニグラタン。
アクセントに蟹ミソがあしらわれている。
蟹好きのJ.C.に不満などまったくない。
予想した旨みが舌の上に拡がり、
ピノとの相性もなかなかなり。

続いては兵庫県産カキのアル・アヒージョ。
長いこと理髪を任せているK子チャンによれば、
ここ数年、若い娘のあいだではアヒージョと
バーニャ・カウーダが人気料理の双璧なんだと―。

ひたひたのオリーヴ油に
ガーリックの風味がタップリと溶け出している。
これにはパンが必要不可欠。
自家焼きの盛合せをお願いした。

今でこそアヒージョは日本でも定番化されたが
この料理に初めて出逢ったのは1974年夏。
アンダルシアはセビリアの街だった。
リスボンから列車で到着し、
ホテルを抑えてから夜の街に出た。

真夜中の零時を回っていたと思う。
小さなバルの道に張り出たテーブルで
若いカップルが海老のアヒージョをシェアしていた。
バスケットにはバゲットに似たパンがテンコ盛り。
これだけで立派な夜食に成り得ていた。

蟹にはマカロニ、牡蠣にはパン。
ブルゴーニュを1本空けてそこそこの満足感。
当夜は3軒で打ち止めとする。
だけどなァ、どこかシックリこないねェ。

小路には人気の老舗が何軒も生き残っちゃいるが
新店が続々と開業して昔のイメージはだいぶ薄れた。
老舗の「肉のまえかわ」ですら
父さん・母さんが外国娘に取って代わられちゃ、さもありなん。
しばらくの間、再訪する気の起らない大井町。
次回来たときにはもっと変わっているんだろうヨ。


=おしまい=

「BISTRO MACHERONI」
 東京都品川区東大井5-5-8
 03-5640-9209