2018年7月24日火曜日

第1921話 成増ではかき揚げを (その2)

板橋区の北のはずれ成増に
90年以上の歴史を刻んできた大衆食堂「やまだや」。
うかつにも半年ほど前まで、その存在さえ知らなかった。
とにもかくにも初訪問がかなった次第だ。

当店の休業日は珍しくも土曜日。
土曜を週に一度のの享楽日と、
そう決めている身にとって不都合きわまりない。
よって思い立った日から決行まで
ずいぶん月日を費やした。

暖簾をくぐり、引き戸を引き、
敷居をまたいでおジャマさま。
カウンターはなく、四人掛けのテーブルがいくつか、
いや、六人掛けもあったかもしれない。

卓に着いたわれわれはまずアサヒの大瓶。
いつものクセで隣卓に並ぶ料理をチラリと盗み見る。
もちろん、お客さんには覚られずにネ。
いえ、われながらイヤなクセだと自覚しているし、行儀も悪い。
判っちゃいるけど、やめられないんだな。

おっと、鯨のベーコンが旨そうだ。
輪郭を縁取る食紅が色落ちせずに鮮やか。
ウン、これは上物に違いないと判断して即注文する。
くじベコに興味を示さぬ相方は茄子の煮浸しを通した。

 
成増に来るのは何年ぶりだろう?
この町で飲食に及ぶのはいつ以来だろう?
そんなことを考えながら
答えの出ぬうちにつまみの2品が着卓した。
 
さっそく辛子をチョコンと載せた1枚を口元へ。
ングッ、モグッ、も一度モグッ・・・
なんかヘンだなァ、旨みが舌に乗ってこないゾ。
思いのほか、滋味に乏しく、これは当たりとは言い難い。
自信を持っていた目利きに誤りが生じてしまった。
そんなことを意に介さぬ相方は茄子に舌鼓を打っている。
 
気を取り直して追加に及んだのは
相方がリクエストしたあさりかき揚げだ。
中村橋ではたこ揚げだったが成増ではかき揚げである。
くじベコのいなしに軽く泳いだあとだけに
さして期待もせなんだが、このかき揚げはクリーンヒット。
食感はサクッときたあとフンワリとくる。
 
これは卵白の効能かな?
それとも造り手の技術だろうか?
いや、恐れ入りやの鬼子母神、
びっくり下谷の広徳寺でありました。
 
=つづく=