2018年10月23日火曜日

第1986話 傾きかけた老舗そば店 (その1)

その日の午後は上野台地を歩いていた。
桜木から谷中を突き抜け、
諏訪神社脇の坂を下って西日暮里駅前へ。
頭をよぎるのはフランク永井の「西銀座駅前」だ。

  ♪   霧にうず巻く まぶしいネオン
   いかすじゃないか 西銀座駅前  ♪

でありますが、このくらいでやめときやす。
西銀座と西日暮里じゃ、似ても似つかんし、
そうひんぱんに昭和歌謡を取り上げると
ひんしゅくも買うしネ。

長いこと東大進学率ナンバーワンを誇っている、
開成高校の丘を仰ぎ見ながら
JR山手&京浜東北線が並んで走るガードをくぐり、
線路沿いを北に歩いて冠新道の西端にたどり着いた。
外来者の姿を見ることまれなる、
むか~しの商店街が
いくばくもない余命を(いたずら)にやり過ごしている。
というのはあまりに言い過ぎで
焼き鳥「鮒忠」も割烹「熱海屋」も健勝の様子であった。

京成線・新三河島駅前で明治通りを渡り、
歩行者の姿もまばらな藍染川通りに入った。
藍染川となれば、
われら”谷根千ウォーカー”にとっての第一感はへび道である。
今は暗渠となった川に覆い被さって走る、
迷い道クネクネのへび道である。
だいじょ~ぶ、だいじょ~び、
ここで真知子姐サンは出さへんから。

だけどサ、何でこんなとこに藍染川通りがあんの?
当然、地下を川が流れているハズで
まるで方向が違うじゃないか!
あとで調べてみたら道灌山下近くの、
よみせ通り入口辺りで分流していることが判明した。
へび道下の暗渠が不忍池に注ぐのに対して
こちらは隅田川へと流れ込む由。
ふ~ん、そういうことなのネ。

しばらくして道は尾竹橋通りに合流。
このまま行けば、JR、都営、私鉄の3線が乗り入れる、
荒川区のプチ・ターミナル、町屋駅前に至る。
ずいぶんな距離を歩いたために
のどは渇くし、腹も空いた。
そろそろ”要一服”であろうヨ。
  
=つづく=