2018年10月26日金曜日

第1989話 鍋屋横丁のとんかつ屋 (その2)

新中野は鍋屋横丁の「かつ金」。
カウンターの隅でビールを飲みつつ、
あらためてメニューを眺めているところ。
ところが店内のメニューは
シーフード・ミックスが真っ黒に塗りつぶされていた。
一応、接客の娘サンに確認すると、
すでに提供を終えた由。
あきらめるほかはない。

それではと再びランチメニューから
これもミックスフライと記された定食をお願いする。
海老フライ・串カツ・コロッケ、
今度は三人官女のお出ましである。
そう、お嫁にいらした姉さまに
よく似た白い顔の持ち主たちだ。

その間にも出入りの客が引っ切りなし。
自動ドアの騒音がどうにも耳障り。
なのにほかの客は全然気にしていない。
自分だけが神経質なんだろうか・・・。
いや、相方もウルサいと言っておる。

われわれの目の前にフライヤーがあり、
揚げ手はご主人ではなく女将サン。
まことに珍しいケースといえる。
よくよく見れば、肉の筋切りからパン粉付けまで
すべて独りでこなしているではないか。
ダンナはといえば、
ごはん・味噌碗・キャベツなどの盛付けと
皿洗いに徹している様子。
ときどき娘にああせい、こうせいと指導を受けている。

聞くともなしに聞いた常連客との会話から
店主は先日、体調不良で病院に運ばれたとのこと。
病み上がりだったのだ。
いや、勢いを失った男はつらいよ、ジッサイ。
身につまされるなァ、まったく。

同時に運ばれた2つの定食膳はボリュームたっぷり。
揚げものの下には油切りの網が敷かれている。
ときどき見かけるこの網は油の溜まり除けよりも
キャベツの水気回避に効力を発揮する。

さっくり揚がってパン粉の立ったロースカツは
ビールにもライスにもピッタシカンカン。
縦切りに二分された串カツは
玉ねぎでなく。長ねぎが使われている。
クリーム系のコロッケと大きめの海老フライも含めて
三人官女はまあそれなりの味わいなり。

たくあん&白菜漬けの香の物と
しじみ味噌碗に手抜かりは寸分もなかった。
遠方からわざわざ出向くほどではないにせよ、
地元の人々をけして失望させない、
優良店であることは確かであろう。

「かつ金」
 東京都中野区本町4-31-10
 03-3383-3729