2019年6月4日火曜日

第2146話 幻魚はやはりマボロシだった (その4)

御徒町のガード下、「味の笛」の2階にいる。
越後のわらびおひたしを注文すると、
「かつお節かけます?」と訊かれ、
「お願いします」と応えた。

時刻はそろそろ16時半。
つまみを取ったことだし、生ビールをもう1杯。
何となれば「味の笛」の生はスーパードライなのに
「吉池食堂」はキリン一番搾りだからネ。

わらびはなかなかの味わい。
アクが抜け切って舌ざわりもネットリとやさしく、
袋詰めの水煮とは別物だ。

そうして乗り込んだ吉池ビル最上階。
落ち着いたのは焼き処コーナーのカウンター。
まずは越乃寒梅の冷たいのを。
同時にげんげの一夜干しも。
すると注文を取ったオジさんが焼き場のスタッフに叫んだ。
「げんげありますかァ?」
問われたほうは無言で首を横に振るばかり。

「どうも入荷が無いみたいです」
(マンマ・ミーア!)
口には出さないが、疲れがドッときた。
何のための再訪だか知れたものではない。

すぐに気持ちを切り替えて
「刺身や鮨のわさびは本わさび?」
「いえ、本わさびじゃありません」
此度は即答。
これで生モノの線は消えた。
「じゃ、先にお酒ください」

追って通したのは当店のオリジナル、時鮭のポテトフライ。
この一品はポテトサラダを薄切りの生鮭で巻き、
パン粉を付けて揚げたもの。
かっぱ巻のように包丁を入れられ、
切り口が上を向いて現れた。

一切れつまんで、まあ、何と申しましょうか。
アイデアは悪くないんだけど、
早いハナシがサーモンフライに
ポテサラを添えるだけでいいんじゃないの?

かつて下魚の下魚だったげんげ。
それが近頃、珍味の幻魚として注目されるようになった。
とはいってもトドのつまり、幻魚はマボロシに終わった。
再々訪する気力も湧いてこない。
サカナだけに気が向くまで、しばらく泳がしといてやろう。

=おしまい=

「味の笛 本店」
 東京都台東区上野5-27-5
 03-3837-5828

「吉池食堂」
 東京都台東区上野3-27-12
 御徒町吉池本店ビル9階
 03-3836-0445