2019年6月21日金曜日

第2159話 日本そば屋のもつ煮込み

ピンクの白鳥たちとおさらばし、池畔を西に出た。
この辺りの地番は池之端で
なんとも趣きのあるネーミングだ。
東京メトロ千代田線・根津駅に近いため、
谷根千の一画ととらえても一向に差し支えない。
ちなみに上野動物園の最寄り駅は根津。
正門のある東園へはJR上野駅が近くとも
こちらには西園が池之端門を備えているからネ。

半刻前、京成上野駅から歩き始めた際、
すでに今宵のターゲットは決まっていた。
かつて毎週のように通った「新ふじ」は
いかにも町のそば屋といったふうで
身も心もリラックスできる。

居酒屋には恵まれない谷根千ながら
日本そばとなれば、粒揃いの土地柄。
「夢想庵」、「鷹匠」、「三里」、「よし房 凛」、
「やなか」、「蕎心」と佳店の枚挙にいとまがない。

中でもJ.C.が慈しむのは真っ先に「新ふじ」。
気取りのないたたずまい、
過不足ない品書きの取り揃えと味、
控えめな価格設定、
付かず離れずの距離感を保つ接客、
どこをとってもまったく穴がない。
好きだ。

引き戸を引くと、客入りは7割程度。
店の一番奥にある2人掛けのテーブルに着く。
いつものようにスーパードライの大瓶を―。
そしてこちらもいつも通りにもつ煮込み。
当店のつまみのイチ推しはコレである。

豚の白もつが合わせ味噌でコックリと煮込まれている。
味に深みを与えるのは三州・岡崎の八丁味噌。
たっぷりのもつに豆腐がよいアクセントとなる。
もつ煮込みに、豆腐・こんにゃく・大根・にんじんなどは
邪道と決めつける向きも少なくないが
J.C.はあまりこだわらない。

むしろ豆腐はありがたく、絶好の箸休めになってくれる。
こんにゃくも食感に変化をもたらして楽しい。
大根はOKだが、にんじんはちょっとなァ・・・
なんて思わないでもないけれど、
江戸川区・小岩の「大竹」なんぞ、じゃが芋入りだからネ。

久々の煮込みを深く味わった。
先を急ぐこの日は冷酒をスルーして、すぐにもりそば。
おや? そばは透明感を増し、コシもかなり強まった。
心なしか、つゆの甘みまで抑制されたように思われる。
いずれにしても1909年創業の大老舗、
1世紀を超えて商売を続けていれば、
多少は時世の流れに沿うことも必要でありましょう。

「新ふじ」
 東京都台東区池之端2-8-4
 03-3821-3913