2019年6月26日水曜日

第2162話 雨の綾瀬は踏んだり蹴ったり (その3)

足立区・綾瀬に降る雨の中をさまよい歩いている。
線路の南側を東に向かって—。
ここで出くわしたのは昭和30年代を彷彿とさせる喫茶店。
コーヒーを飲む習慣のない身につき、
サテンにはまず入らぬが、この店には強く惹かれた。

ガラスのドア越しに店内をのぞけば、
うわ~、いいじゃないの、
懐旧の心揺さぶることはなはだしい。
マスターかな?
初老の男性が接客に励んでいる。

店頭のサンプルケースに見入ると、
おおっ、キリンラガーながらビールがあったヨ。
中瓶が500円だったかな? 値段は忘れた。
ただし、困ったことにドリンクやスイーツばかりで
スパゲッティやピラフなど軽食の類いがまったくない。

サンプルがないだけでメニューには載ってるかもしれないが
何せ、昼めし前の空きっ腹、リスクを犯すわけにはいかない。
よってスルーした。
でも、ここへは近々帰って来るに違いない。
綾瀬に用などなくとも、この空間にしばし身を置いてみたい。

書き忘れたが綾瀬駅南側の地番は西綾瀬1、2丁目。
そこへ楔を打ち込むようにして
駅に接するのが葛飾区・小菅4丁目。
東京拘置所のある、あの小菅である。
ついこの間、カルロス・ゴーンが出て来た拘置所正門は
小菅駅からも綾瀬駅からもほとんど同距離にある。

それはそれとして、たどり着いたのは先述した「鳥 八代」。
双六で言やあ、振り出しに戻っちまったわけだ。
駅に到着後、ゆうに1時間は経過している。
「日高屋」や「ケンタ」はごめん蒙りたいので、もうここしかない。

さんざ歩いたあとだけに座り飲みしたかったけれど、
一画をグループが占拠しており、やけに騒がしそう。
立ち飲みコーナーへ避難する。
先客は3人、オッチャン2人に若めの女性だ。

取りあえずオッチャンの間に割って入って横並び。
ふと脇を見やってビックラこいた。
何と、女性は乳飲み子を抱えてるじゃないか!
赤ん坊胸に立ち飲み酒場はないやろ!
旦那のツラを拝んでやりたいぜ。
それともこの子は父(てて)無し子かや?

=つづく=