2019年6月6日木曜日

第2148話 ここは「関やど」松戸のそば屋 (その1)

♪   旅空夜空で いまさら知った
  女の胸の 底の底
  ここは関宿 大利根川の
  人にかくして 流す花
  だってヨー あの娘川しも 潮来笠 ♪
     (作詞:佐伯孝夫)

ご存じ橋幸夫のデビュー曲、
「潮来笠」が日本中に流れたのは1960年。
歌詞はその3番で、舞台は関宿だ。
関宿は千葉県最北端に位置し、
利根川と江戸川の分岐点にあり、
茨城県と埼玉県の県境に鋭く打ち込まれた、
楔(くさび)のように存在している。

旧関宿藩の城下町は水運に恵まれ、
大いに栄えたものの、近世に入ってから衰退の一途。
今となっては往時の栄華を偲ぶよすがとてない。
「潮来笠」に謳われた時代に訪れたかったものだ。

てなこって、今話の主役は「関やど」。
いえ、その旧城下町ではなくって
千葉県・松戸市の日本そば屋である。
新京成線で松戸から1駅の上本郷に7年ほど棲んだため、
かつては「関やど」を利用すること度々、
思い出深い店舗なのである。

あまりガラのよくない土地柄に
不似合いなほど風雅なたたずまいを見せるそば処は
松戸市民の誇りと言っても過言ではない。
もっともほとんどの人が自覚してないがネ。

JR常磐線・松戸駅に降りたのは晩酌にまだ少々早い時間。
店は通し営業で開いているものの、
相方との待合せに余裕があった。
よって旧松戸宿界隈を歩く。
松戸神社や平潟遊郭の跡地は
気まぐれな散歩者の興をそそって余りある。
小半刻を過ごして駅に戻った。

こちらもまた「関やど」を熟知しており、
しきりに懐かしむ相方と向かう道すがら、
あれっ! こんなところにこんな飲み屋があったっけ?
「な兵衛」なる、珍妙な店名の居酒屋を見つけた。

「関やど」のほぼはす向かいなのに
今までまったく気づかなかったのは、なぜ?
しばし立ち止まり、気配をうかがううち、
これは佳店に相違ないと確信。
そば屋の帰りの立ち寄りを決断した瞬間だった。

=つづく=