2019年11月12日火曜日

第2261話 たぬき小路にサバイバル (その1)

上野・松坂屋のそばに、たぬき小路なる裏路地がある。
蛇を扱う「文久堂」(創業文久二年)と
わりと新しい蘭州牛肉ラーメン「國壱麺」の間だ。
蘭州麺のせいで路地には八角の匂いが漂う。

すでに灯りが点ることもなくなった、
新栄会という名を記した街灯が並んでいるから
かつてはそれなりの繁盛店が並んでいたハズだ。
そこが今となっては表通りで営業する店々の裏口、
あるいは勝手口と化してしまい、
ゴミ袋だの、空き缶だの、煙草の吸殻だの、
心ない輩の狼藉極まって、目を覆うばかりの惨状。
白昼、好きこのんでこの路地を通る者とていない。
ただし、或る1軒を目指してやって来る、
食いしん坊を除いては―。

とんかつの老舗「とん八亭」を18年ぶりに訪れた。
予期した通り、先代の姿はない。
倅と思しき四十がらみの店主と、
柔道のヤワラちゃんに似た女性は奥さんだろう、
夫婦二人だけの切盛りだ。

13時過ぎのことで行列もなく、
すんなりとカウンターに座れた。
隣客との間隔がじゅうぶん保たれており、
リラックスできる。
数少ない品書きを紹介すると、

ヒレカツ定食(2200円)  ロースカツ定食(1900円)
一口カツ定食(1300円)  かにコロッケ定食(1500円)  
海老フライ定食(1500円)

つまみは、とんスジ煮込み(400円のみ。
かにサラダ(600円)と板わさ(300円)は
黒インクで消されていた。

ほかに平日限定のサービスメニュー、
かつライス(900円)があり、それをお願いした。
使用する豚肉は国産にこだわり、
千葉県の藤崎農場産が中心だという。
ごはん・キャベツのお替わりは1回無料。
みそ椀のお替わりは100円だ。

親切な店で貼り紙により、
客に美味しい食べ方を伝授してくれている。
曰く、
基本、とんかつにはとんかつ、魚介にはウスターだが
最後の一切れをウスターで食べると食後感が軽くなる。
岩塩・醤油もおすすめである。
甘さを求める向きにはケチャップの用意あり。
キャベツ用のマヨネーズも同様。

まったくもって手取り足取りだが、ここで思い出した。
18年前は皿にデフォでケチャップが添えられてたっけ。
そういえば、
上野のとんかつ店ではケチャップをよく見かける。
「ぽん多本家」、「蘭亭ぽん多」もそうだった。

=つづく=