2020年4月8日水曜日

第2367話 二豚を追うものは一豚をも得ず (その1)

前々話で紹介した「炭火焼とり 二羽」から
そう遠くはない場所に
「福来軒」という古い中華料理屋がある。
町中華ながら本場・四川の麻婆豆腐なんぞも提供し、
断トツの一番人気は回鍋肉だ

栄養と野菜の補給に訪れると、
おやっ?
しばらくお休みしていた隣りのとんかつ屋、
「気賀亭」が再開してるじゃないか―。
と思ったのは早とちりで
「とんかつ 極(きわみ)」なる新店だった。

店頭の立て看板を見ると、
メニューは多種多彩にして盛合せモノが豊富。
これは否が応でも客の気を惹く。
ふ~む、回鍋肉ととんかつねェ。
二豚をいっぺんには食べられないから一豚に絞るしかない。

初心撤回して「極」に入店。
あとで調べて判ったことだが当店の正式名称は
「嬉嬉豚 とんかつ 『君に、揚げる。』(極)」。
それを知っての第一感は
バッカじゃないのっ!

そもそも屋号なんてものはシンプルに越したことはない。
言っちゃあ悪いけれど、この店のは必要以上に長い。
そしてセンスのかけらもない。
入店前に知っていれば、
すんなり回鍋肉でキマリの昼めしだった。

たぶん名付け親はオーナーだろうが
頭が悪いとまでは言わないまでも
けっして良くはなかろうヨ。
よしんば悪くないとしても
常識の欠落には目を覆いたくなる。

J.C.の知る限り、最も長い店名を持つレストランは
マンハッタンのワシントン・スクエアに近い、
バロウ・ストリート17番地のアメリカ料理店、
「One If  by Land, Two If by Sea 」。

この意味するところは
アメリカ独立戦争における独立軍のランプ信号だ。
敵(英国軍)が陸から攻めて来たら一つ、
海から来たら二つ、ランプを点滅させる暗号となっていた。
こういう長さはまったくOK。
OKどころか、歴史に裏打ちされた品格すら漂わせ、
他店に見倣ってほしいくらいのものである。

=つづく=