2020年4月15日水曜日

第2372話 鮨の命は酢めしに宿る (その1)

ケータイの文字が16時を示したので腰を上げた。
「もつ焼 碁ゑん」の勘定は2233円。
当店の利点は豊富な稀少部位の取り揃えだ。
課題は接客と居心地だネ。

1分と歩かず「かわなみ鮨」に到着。
つけ台6席のみの右端に促された。
いかにも家族経営という感じで
つけ場には親方と女将に娘が一人。
外の接客も娘が一人で、こちらがお姉ちゃんかな?

中ジョッキ2杯のあとだが、もう少々ビールを飲みたい。
黒ラベルの中瓶を通した。
長居するつもりはないのでハナからにぎってもらう。
「にぎりは1カンづつでもいいですか?」―
親方に訊ねると、
「すいません、それやってないんですヨ」―
久しぶりに予想外の返答を耳にした。
まあ、いいでしょう、いいでしょう。

今どき珍しいローカルルールだが
店には店のポリシーがあって当然、ましてやここは十条だ。
それぞれにジュジョウがあるんでしょうヨ。
だけどもちょいとばかり、
困っちゃうなァ、デートに誘われて~、
じゃなかった、いろいろつまめなくって~。

町場の鮨屋は大き目なので
酢めしを小さくにぎってもらえるようお願いする。
その点は快く承諾していただけた。
口火を切るのは常に白身。
本日のオススメにあった平目と光りモノの小肌を―。

ん? 酢めしが弱い。
打ち酢不十分にして塩も薄い。
前日に締めたという平目は、ちと頼りない。
小肌も〆の浅いタイプでインパクトに欠ける。
おんな子どもはじめ、万人受けを狙った結果だ。

今朝締めのしまあじと迷った末、
光りモノをアンコールしたくて、さば。
同時に友人イチ推しの大とろも―。
値段からして本マグロではなく、
バチマグロだろうが、とにかく素晴らしいそうだ。

案の定、さばも〆が足りずに締まりがない。
予想通りバチだった大とろはよかった。
鮨屋でめったに注文しない大とろながら
脂がほんのりと甘く上品な口当たり。
本わさびが欲しいところだが
庶民的な町鮨に望むのは酷というものだろう。

=つづく=