2020年4月14日火曜日

第2371話 紅顔の美中年 コウガンを食う

その日、JR京浜東北線の電車を降りたのは東十条駅。
一つ先の昼飲み天国、赤羽に行くつもりが
ドアの閉まる寸前、衝動的に下車してしまった。
駆け込み乗車同様、飛び降り降車もいかんわな。

歩いて楽しいストリート、演芸場通りを十条に向かう。
ここは十条中央商店街が正式名称ながら
大衆演劇の篠原演芸場があるためにこう呼ばれ、
言わば、愛称が正称を押しのけたカタチとなっている。

赤羽ほどでなくとも十条もまた昼飲みのプチ・パラダイス。
旧軍都の名残りで都の城北、北区には
神をも怖れぬ不届き酒場が目白押しなのだ。

メインの十条銀座を軽く流したあと、
仲通り商店街に入ってしばらく、庶民的な鮨屋に遭遇した。
おお、これが噂に高い「かわなみ鮨」か。
東十条在住の友人によれば、界隈随一の鮨屋がここ。
でもねェ、持ち帰りの品々が店頭を飾り、
とても旨い鮨が出てくるようには見えない。

とは言え、ここで遭ったが何かの縁。
先を急ぐ身でもなし、ワントライもまた一興だ。
開店の16時まで1時間近くあったが
取り急ぎ電話を入れると、すんなり席は確保できた。
継ぎの店は一案あって、近くの「もつ焼 碁ゑん」に直行。

長いカウンターの一番奥で
スーパードライの中ジョッキを通し、焼きとんのセレクト。
当店の味つけは客が択べず、焼き手におまかせ方式。
第一ラウンドは、まめ・ぱい・あみればの3本を。

まめ(塩)はまさしく腎臓、かすかにオシッコ臭がする。
とはいえ、独特の食感が心地よく好きな部位だ。
ぱい(塩)は牝豚の乳房でサクサクの歯ざわりが魅力。
ほとんど生のあみればー(たれ)は
さすがに火の通りが浅すぎた。

中ジョッキのお替わりと一緒に
第二ラウンドは、しろ・らんそう・ほーでんの3本。
下茹で過多のしろ(たれ)は持ち味が消されている。
らんそう(塩)のコリコリ感は絶妙。
イボイボ状の肉片が砂糖をまとっ豆菓子の如し。
まさかコレみんな豚の卵子じゃないよな。
いや、待て待て、卵巣は卵の巣窟じゃないか、
ウ、ウゲーッ! まっ、旨いからいいんんだけどサ。

いよいよ締めのほーでん(塩)。
何を隠そう、ほーでんは独語で
牡豚のタマタマ、いわゆる睾丸だ。
これにて紅顔の美中年、睾丸を食う破目に―。

結果はタマタマかもしれんが
クセのないればーみたいでタマに食ったらタマりまへん。
あまりの旨さにぶっタマげたのでありました。
というのはちと言い過ぎで、そこそこ旨い程度と
あタマに入れといてくんらまし。

「もつ焼 碁ゑん」
 東京都北区十条仲原1-11-2
 03-5948-9822