2020年6月11日木曜日

第2413話 美人女将のおばんざい (その1)

いい歳こいてよせばいいのに
USブラックアンガス牛のサーロインを
200g もやっつけたあと、
なおも天神下交差点界隈をウロウロする、
胡乱(うろん)なオッサン1名。

裏道に戻り、通りすがったのは
飲食店が何軒か入居する雑居ビルだ。
入口の立て看板に雑誌の切り抜きがあり、
妙齢の女性が微笑んでいる。

暗いなか、どうにか読み取ったことには
美人女将が独りで切り盛りする、
「おばんざい 心」なるお店。
ふむ、ふむ、美人、大いにけっこう、
2~3杯いただいてまいりましょうか。

そう思ったまではいいけれど、
急にアメリカのベコ野郎がズシリと効いてきやがった。
酒ならまだまだ楽勝ながら飯は絶対にムリ。
北島康介じゃないが、なんも食えない!

おばんざい屋で料理を取らずに
酒をあおるだけの不作法は厳に慎まねばならない。
結局は薬局、
その夜は腹ごなしがてら、トコトコ歩いて帰りましたとサ。

数日後、電話を入れた。
「ええと、心(こころ)サンですか?」
「いえ、心(しん)といいます」
あらまっ!
ここで赤塚不二夫の「もーれつア太郎」に出てくる、
ココロのボスよろしく、
(それは間違えたのココロ!)とはさすがに言えず、
翌日の営業を確認するにとどめた。

明けて当日、14時過ぎに訪れる。
当店は昼夜通し営業だ。
カウンターのみ8席ほどの店内に先客は3名。

ふ~む、美人女将ねェ・・・。
いいでしょう、いいでしょう、
美人女将でいっときましょう。
まっ、ちょいとばかりオマケしたんだガニ。

生ビールはスーパードライ。
お願いすると女将、ジョッキとグラスを両手に持ち、
「どちらになさいます?」
すかさず応えて
「こっち!」
指さしたジョッキは、つい先日、
曳舟の「上海菜館」で3杯もやっつけたばかり、
東京五輪記念の555ml なのでした。

=つづく=