2020年6月26日金曜日

第2424話 オバちゃんたちの酢豚弁当 (その2)

上野と浅草の中間あたり。
昼めしどきの「ひょうたん」にいる。
隣りのオジさんが焼きじゃけの弁当を食べている。
ひょいと厨房の様子をうかがうと、
ここの献立はすべて弁当仕立て。
四角い弁当箱が不規則卍で四つに仕切られ、
一番広い仕切りにごはん、二番目に主菜というスタイル。

厨房のオバちゃんが中華鍋を力任せにあおってる。
酢豚弁当が2つ同時に出来上がり、1つはOLさんへ、
もう1つは目の前に着卓し、湯気を立てている。
副菜は
しらすおろし、なめたけ、じゃが芋の煮っころがし、
小冷奴、大根ぬか漬け、きゅうり青唐醤油漬け、
永谷園わさびふりかけ、
といった陣容に、わかめの味噌汁。

造り立てのなめたけが温かい。
冷奴には生姜と小ねぎも添えてある。
永谷園が苦笑を誘うが
いかにも女性の手になる弁当、温もりが伝わってくる。

惜しいのは肝心の酢豚だ。
醤油過多のため、相当しょっぱい。
酢豚は本国では糖錯肉塊と表記される。
英語ならスィート&サワー・ポーク。
だけどもこれはソルティ・ソーイ・ポークだヨ。

それはそれとして酢豚弁当で思い出すのは
倒叙式推理ドラマの秀作「警部補 古畑任三郎」。
犯人役が鹿賀丈史のエピソード、
「殺人特急」では酢豚弁当が重要な役割を担う。
もっとも酢豚そのものではなく、
空き箱と掛け紙をとじる紐の結び目がポイントだった。

数日後、同じ左衛門橋通りを今度は北へ向かい、
「ひょうたん」に差し掛かる。
居酒屋風という印象を抱いていたが
あらためて袖看板を確認すると、
「居酒屋 ひょうたん 酒・めし」とあった

通り過ぎてから、ふと思ってふり返る。
メニューボードが斜めに置かれて北東を向いており、
南から来ると、ふり向かなきゃ見えないのだ。
ハンバーグ   しょうが焼き   鯨竜田揚げ 
 焼き魚―さば・さわら
へえ~、鯨の竜田揚げがユニークだなァ。

この日はちょいとしたミスの処理のため、先を急ぐ身。
めしを食ってるヒマがない。
立ち去る頭の中に久保田早紀の歌声が流れ始める。

♪   あなたにとって私
  ただの通りすがり
  ちょっとふり向いて
  みただけの阿呆人  ♪

21歳の娘が作ったとはにわかに信じ難いほどの名曲が
「異邦人」でありましたネ。

「ひょうたん」
 東京都台東区東上野6-5-1 
  03-3841-5066