2020年6月1日月曜日

第2405話 ミックスサンドとウインナー (その2)

隅田の川向こう、墨田区の花街、
向島の「HOLLY」にて
ミックスサンドとウインナーコーヒーの昼下がり。
サンドイッチがとてもよいデキだ。
個性的なフィリングを自家製のマヨネーズが
上手にまとめ上げていた。

喫茶店でミックスをお願いすると通常、
ハム・野菜・玉子の3種がそれぞれ独立して供されるが
当店はフィリングそのものがミックスで、それ1種のみ。
小さめの正方形6切れカットは食べやすい。

マスター曰く、
お客さんがみんな歳とっちゃって口開かないし、
 入れ歯だから小さくしたんだヨ」
J.C.引き取って
「無理に開けさせて入れ歯落っことされたら
 エラいこってすよネ」
高円寺の「民生食堂 天平」もそうであったが
事前に電話を入れてから訪れると、
すんなり言葉が交わせるし、会話にも弾みがつく。
いや、まったく、この日も話した、話した、話しました。

外国航路の船乗りだった御祖父が洋食好きで
サンドイッチも自分で造ったそうだ。
その姉上、マスターの大伯母の実家は
装飾品を扱う花街の老舗。
粋筋の街だけにハイカラな人であった由。
訊けば、長いこと棲んだ台東区・柳橋で
J.C.も知るT商店は今も営業中とのことだった。

再来を約し、マダムに送られてスカイツリー方面へ歩く。
それなりに人は出ているが以前とは比べるべくもない。
押上駅の南側、浅草通りと四ツ目通りの交差点で
いなり寿司の佳店「味吟」に通りすがる。

東上野の「きつね忠信」亡きあと、東京一のいなりは此処。
「忠信」は油揚げを裏返す、いわゆるインサイド・アウトを
持ち味としたが「味吟」は大きな油揚げを一大特徴とする。
つい立ち寄って、いなりとかんぴょう巻きの詰め合わせ、
助六寿司を買い求めた。
寿司の名称由来は歌舞伎のヒーローである助六の愛人、
新吉原の花魁、揚巻から来ている。
組合わせが(油揚げ)と(のり巻き)だからネ。

助六をぶら下げて玉ノ井へと歩みを進める。
寿司折りのぶら下げは昔から
千鳥足で歩く酔っ払いの専売特許だが
当方の足取りはまだまだ軽やかだ。

永井荷風や吉行淳之介が小説の舞台とした鳩の街を往く。
来るたびに寂れが進む哀しい街の姿を
ため息をつきながら脳裏に焼き付けた。

「HOLLY」
 東京都墨田区向島2-22-10
 03-3624-7522

「味吟」
 東京都墨田区業平2-14-6
 03-3623-3950