2020年6月25日木曜日

第2423話 オバちゃんたちの酢豚弁当 (その1)

台東区・松が谷で所用を済ませ、
左衛門橋通りを南下していた。
このまま真っ直ぐ行けば、隅田川へと注ぐ、
神田川の最下流から柳橋、浅草橋と数えて
三つ目の左衛門橋に達するが、そこまでは歩かない。

浅草通りに差し掛かる手前で
居酒屋風の和食店に目がとまった。
「ひょうたん」のランチメニューに惹かれたのだ。
ボードにはこうあった。

酢豚  800円
チキンカツ  800円
稚鮎唐揚げ  800円
焼き魚―しゃけ・ぶり  850円

焼き魚はしゃけとぶりの二択だから4種5品。
さて、どの献立に惹かれたのでしょうか?
聡明な読者のこと、もうお気づきですネ。
お察しの通り、稚鮎唐揚げでありました。

この時期に出回る稚鮎はほぼすべて琵琶湖の養殖もの。
スーパーになくとも
魚種を手広く扱う鮮魚店なら手に入る。
しかし、昼の定食に稚鮎という店は極めてまれだ。

時刻は12時45分、吸い込まれるように入店した。
先客はカウンターにオジさんが1人。
テーブルには単身のOLとリーマンの4人組。
オジさんとの間、1席空けてカウンターに着いた。

スタッフは接客1、調理2の3人でみんなオバちゃん。
男っ気皆無は意外だった。
接客のオバちゃんが壁のボードを差しながら
「鮎がたった今、売切れちゃいましてねェ」
ガッビ~ン!
口には出さず、心のうちで衝撃を受け止めた。
だけどサ、これじゃ
わざわざ「ひょうたん」の敷居をまたいだ意味がない。

国破れて山河あり。
夢破れて酢豚あり。
肩を落として酢豚を通した。

こののち4人組の支払いを見ていて知り得たが
ヤツラのうち2人までもが稚鮎を食ってやがった。
おい、おい、いい若いモンが
年寄り臭いモン食うんじゃないヨ。
年寄りが迷惑するじゃねェか、ったく。
へっ、この科白もまた、
心のうちでつぶやくだけにしておいたがネ。

=つづく=