2020年9月15日火曜日

第2481話 飛べない白鳥に追われて

一杯のコーヒーのせいで電車に乗り遅れたが
このままアホづら下げて次を待つのはまっぴら。
日頃からスイッチの切り換えは早いため、
予定変更を即断即決。
入線してきた各駅に乗って我孫子へ。
以前を言やあ、この町と
多生ならぬ、多少の縁があったのだ。

我孫子を最後に訪れたのは’79年夏。
当時のGFが此処に棲んでおり、手賀沼の花火を一緒に見た。
あの頃の手賀沼は悪名高く、水質汚染が国内ワーストだった。

沼への坂道を降り切って手賀沼公園に突き当たり、
園内に入れば、沼は目の前に拡がっている。
ほとりを歩くと水の濁りはそれほどでもなく、
かなり改善されていた。

エサをもらうつもりだろう、水鳥が近づいて来る。
白鳥が5羽、大鷭(オオバン)が3羽。
白鳥はコブハクチョウで皇居のお濠と同種だ。
真夏なのに国内残留しているのは
渡りを忘れたわけじゃなく、
翼に細工されているため、飛べないのだ。

稀少な野鳥の鷭はくちばしが白いオオバン。
江戸の昔、三鳥二魚の珍味として
鶴・雲雀、鯛・鮟鱇と並び称された。

やってはいけないと知りつつも情が移る。
彼らのエサを調達するため、園外に出た。
近所のサンドラッグでロールパン1袋、
自分用にビールを1缶購入。

引き返したら、それぞれ2羽の4羽しかいない。
かまわず給餌のスタート。
白鳥がクチバシで鷭を追い払おうとするが
すばしこい鷭は巧みに逃げ回る。
何だか微笑ましいねェ、心が安らぐなァ

残りの鳥たちを探して岸辺伝いを歩む。
離れた場所で草を食む3羽の白鳥を発見。
何処へ行ったか、1羽の鷭は消息不明のまま。
パンをちぎって草むらに放ってやると、
こっちのほうがいいんだねェ、
揃ってダッシュの鳥まっしぐら。
挙句は奈良の鹿みたいに手からダイレクトだ。

頭を撫でても平気の平左、パン無きあともついてくる。
3羽の白鳥を連れ歩くのは初体験。
いや、ちょいと待て、
こりゃ連れてんじゃなく、追いかけられてんだな。
先頭のヤツなんざ、人の尻を突っつきやがる。
一杯のコーヒーから、とんだ展開になったものヨ。

締めくくりに一首
手賀沼の岸辺の隅の草むらに
われパン尽きて白鳥(とり)に追はるる

さらに重ねて
白鳥(しらとり)はかなしからずや草の青
パンの白にも飽きずたた食ふ