2020年9月1日火曜日

第2471話 フォワグラ溶けてウナギに転ずる (その2)

神楽坂のその名も「bisous 神楽坂」にて
窓際族となった二人。
ちなみに bisous(ビズ) とはフランス流の頬寄せキスだが
われわれはソーシャル・ディスタンシングを保っていた。

目の前に球形の荒野ならぬ、球形の容器が二つ。
小さいながらも三段重になっていた。
内容をすべて紹介するのは厄介ながら
せっかくメモッたんだし、
本格的なフレンチ・ディナーは実に久しぶり。
しばし、おつき合いいただきたい。

=一の重=
鴨胸肉&プラム フォワグラパウダー掛け エスプレッソソース

=二の重=
湯引き鱧&いくら
いちぢく&クリームチーズの生ハム巻き
ホロホロ鳥のバロティーヌ ビーツ添え

=三の重=
かつおたたき パプリカ&ズッキーニ添え

気に染まったのはホロホロ鳥だ。
バロティーヌは詰め物をした獣禽・魚類を
ブイヨン煮にし、アスピック(煮凝り)で覆った料理。
デリケートな滋味にあふれている。

かつおはやはり土佐造りに如くはなく、
せめてニンニクだけでも欲しい。
青背のサカナは和食に一日(いちじつ)の長あり。

グラスの赤に移行した。
ニュージーランドのピノ・ノワールは
アストロラーベ(900円)。
下手な仏産よりもずっと薫り高い。
ピノ好きの相方の頬も緩んでいる。

もう1皿の前菜は穴子のグラタン、こちらは温製だ。
長崎産を謳っているから対馬のものだろう。
半世紀も以前、旅先の釜山で穴子の刺身を食べた。
海岸沿いに屋台が並んでおり、
穴子刺しを出す店が何軒もあった。
対馬は長崎より釜山に近いのだ。

日本人は穴子の刺身をほとんど口にしない。
提供する店が限られているからだ。
うなぎの生は危険だが穴子はOK。
いや、OKどころか、とてつもなく美味い。

当店のグラタンもよかった。
枝豆入りのラタトゥイユと合わせ、
バルサミコ酢でまとめてあった。

=つづく=