2024年8月28日水曜日

第3611話 2年ぶりの「美家古寿司」(その1)

近頃めっきり鮨屋に行かなくなったが
2年ぶりに浅草「弁天山美家古寿司」へ。
J.C.は此処で江戸前鮨のイロハを教わった。
ひいてはおのれの人格形成に
大きな影響を与えてくれた店だ。
師匠は今は亡き4代目である。

今宵の相方はアパレル界で
辣腕を振るうT子サン。
ひと月近くも前に電話予約を入れたが
混み具合が半端でなく取れた時間は
開店の17時から18時過ぎまでー。
18時半には次の予約が詰まっている。
人気なんだねェ。

おノボリさんみたいに雷門で待ち合わせ。
2年ぶりに暖簾をくぐると
6代目が出迎えてくれた。
つけ台でビールを注ぎ合っていると、
5代目が2階から降りてきてくれた。

予約の際、接客のオネバさんとのやりとり。
「5代目はつけ場に立たれてますか?」
「いいえ、お昼は降りてますが
 夜は2階で待機です。
 呼べば降りて来ますヨ」
「いえ、いえ、そんなおそれ多い。
 いいです、いいです」

そのハナシをすると
「オカザワさんが来られるんでネ」
「うれしいなァ、ありがたいです」
お通しはまぐろ角煮。
時間が押しているので
さっそくにぎってもらう。

鮨だねの順番はほとんど毎度同じ。
完全にルーティン化している。
皮切りは平目昆布〆と小肌。
ここで4代目の思い出話を一くさり。

「ボクが初めておジャマしたのは
 長いこと途絶えていた隅田川の花火が
 復活した1978年のことなんです。
 初めての『美家古寿司』なんで
 それなりの覚悟がいるでしょ」

二人の親方も連れも一様に
「フン、フン、フン」
吉永小百合じゃないけど奈良の鹿のフンだ。

「土井善晴サンのお父さんの土井勝サン。
 あの方が書いた本に
 『本物の味を訪ねて』ってムックがあって
 そこに昆布締めと小肌で始めヨ、とのこと。
 その通りに注文したら
 背中向けて玉子を焼いてた4代目が
 クルリと振り向いてニッコリ笑い、
 自らにぎり始めてくれたんですヨ。
 認められたみたいでうれしかったなァ」

=つづく=