2024年8月30日金曜日

第3613話 安部公房の世界

本日は渋谷で映画。
この春、「キエフ裁判」と
「青春を返せ」を観たユーロスペースの
階上にあるシネマヴェーラへ。
特集は
「生誕百年記念 シネアスト安部公房」

2本続けて観た。
ともに脚本が安部公房である。
1本目は「燃えつきた地図」(1968)。
四半世紀前に1度観ているが
ほとんど忘れていて市原悦子の
ヌード・シーンだけが記憶に残っている。

監督は勅使河原宏。
演ずるは勝新太郎、市原悦子、渥美清。
勝プロダクションの製作だ。
名優が "3人寄れば文殊の演技"。
殊に市原悦子の存在感が際立つ。
スゴい女優さんだネ、この人はー。
武満徹の音楽も強い印象を残す。

不条理劇というか、実験的映像というか、
安部公房を理解するのは
一筋縄ではいかない。

2本目が「壁あつき部屋」(1956)で
舞台は巣鴨プリズンと来たもんだ。
BC級戦犯、同房6人の運命が描かれる。
初めて知ったことながら
A級戦犯は戦勝国・アメリカとの取引で
不合理に釈放され、
官・民の要職に就く者少なからず。

悲惨なのはBC級だ。
全員釈放に至るまで13年の歳月を要し、
その間、驚くべきことに全5700人中、
何と920人もが処刑された。
ほかに自殺者や精神を犯された者多数。
いつの世も一番悪い奴ほど
巧妙に逃れてはほくそ笑んでいる。

監督は小林正樹。
配役は、浜田寅彦、三島耕、三井弘次、
伊藤雄之助、信欣三の面々。
紅一点は岸恵子で
清純な娘が苦界に身を沈めることとなる。

小林正樹が執念で撮り上げた力作は
アメリカ当局への配慮から
公開まで3年の月日を要した。

「砂の女」「他人の顔」など、
当時話題となった作品が並ぶ特集は
先週末、幕を閉じた。
今宵は渋谷で晩酌とまいります。