2012年8月3日金曜日

第374話 食べて歩いて 歩いて飲んで (その1)

スカイツリー開業後は浅草と墨堤を敬遠がちである。
何が嫌いって人混みほど嫌いなものはないですから・・・。
かく言う自分も人混みを構成する一員なので
勝手な言い草だと自覚してますけどネ。
でも、好きなものは好き、ガマンにも限界があった。

でもって現れいでたる言問橋。
古くは在原業平が

 名にし負はば いざこと問はむ都鳥 
 わが思ふ人は ありやなしやと

と詠んだ言問橋である。

時代下ってこまどり姉妹が

 ♪ 何も言うまい 言問橋の
   水に流した あの頃は
   鐘が鳴ります 浅草月夜
   化粧なおして
   エー化粧なおして 流し歌 ♪
      (作詞:石本美由起)

と歌った言問橋である。

だが実際に業平が歌を詠んだのはもっと上流のほう、
橋場の渡しがあった辺りという説が有力。
こまどり姉妹にしても可憐な2羽のロビンが
今じゃ化粧なおすどころか濃すぎちゃって
クマ取り姉妹なんぞと揶揄される始末、哀しむべし。
とは言うものの、J.C.はクマさん、もとい、
コマさんたちを応援してますヨ。
現在も上記の「浅草姉妹」を聴きながら書いている。

浅草情緒満載のこの曲を
浅草を愛した永井荷風に聴いてもらいたかった。
レコードがリリースされたのは1959年10月。
この年の4月に荷風は亡くなっている。
たった半年、間に合わなかったことになる。

言問橋からスカイツリー方面を回避して
吉原に向かい、吉野通りを北上してゆく。
日本堤から清川の町に入った。
清川=ほぼ山谷である。

実はこの翌日に旧知のSおサン、K雄サンと会食する予定。
例によって店選びはJ.C.の役割につき、
会場の「山海」の下見を兼ねた下町歩きだったのだ。
下見といっても店頭の品書きをながめて
おおよその献立を組立てるだけだけどネ。

下見を済ませたとき、
かろうじて店舗の態(てい)を成している小さな店に目がとまる。
店先を往復して中をうかがうも人の気配がまったくない。
ただ、いなり寿司を商う店だということは拝察できた。
今まで何度も「山海」を訪れているのに
店の存在にはついぞ気がつかなかった。
ハテ、どうしたものだろう。
体内に好奇心の芽生えを実感しつつ太陽ギラギラの空を仰ぐ。

=つづく=