2012年8月23日木曜日

第388話 一杯のかけそば =夏バージョン=

1989年(平成元年)、
一杯のかけそばブームが日本中を席巻した。
手塚治虫・美空ひばり・松田優作が
相次いで亡くなった年。
日経平均が史上最高値をつけた年でもある。

物語は1972年大晦日の晩の出来事で
舞台は札幌の「北海亭」というそば屋。
サッポロラーメンみたいな屋号の日本そば屋だ。
母と二人の男の子が一杯のかけそばを分け合って食べるハナシは
メディアが煽ったり、国会で話題になったりしてブレークしたものの、
「笑っていいとも」の番組内でタモリが
当時150円あったらカップ麺が3個買えたハズ、
”涙のファシズム” だ! と糾弾してブームは終息に向かった。

あれから23年。
月日の経つのは早いが、株価を見る限り、
失われた23年と言っても過言ではあるまい。

お盆休みでN山クンが九州から上京してきた。
仕事を兼ねているので出張扱いだという。
その日の午後、両国にアポありとのことで
北斎通りの日本そば屋「業平屋」で昼めしを一緒することに。

客と会う先方、飲み疲れの当方、
ビールは大瓶を一本だけにして二人で分け合う。
一杯のかけそばならぬ一本の瓶ビールである。
それでも”そば前”のつまみはあったほうがベター。
そば味噌(120円)と地鶏白レバ焼き(500円)を所望した。
いくらデフレの世の中とはいえ、そば味噌の値付けが泣かせる。

ランチメニューは葛飾北斎にちなみ、ほ・く・さ・いの4種類。
火薬ごはん付きの”ほ”は9月からの提供だという。
別々のを選んで適当に分けることにした。

 く・・・・せいろ or かけ ミニ天丼(海老・野菜) 
      小鉢2品 香の物
 い・・・せいろ2枚(通常のつゆ&胡麻つゆ)

”い”が冷たいせいろ2枚なので、”く”はかけでお願いした。

「業平屋」のそばはしなやかな細打ち。
そばとそうめんの中間ほどの細さだ。
初めて食べるN山クンが目を細めている。
天丼は典型的な下町風。
胡麻油と濃いめの丼つゆが小気味よくシンクロナイズする。
ごはんが特筆でこんな銀シャリにはなかなか出会えない。

しかし何よりもわれわれの心を打ったのは一杯のかけそばであった。
二人でキッチリ半分ずつ、つゆまでも飲み干す。
暑い真夏も何のその、熱さをもって暑さを制するのだ。
こんなに旨いかけづゆにもそうそう出会えない。

そしてしなやかなそばは
熱いつゆにもヘタらず、しっかりコシを残している。
あたかも最後の一線だけは
かたくなに守り通す貞淑な乙女のごとくだ。
古いだの、時代遅れだのと言われようとも女性はかくあるべし。
近頃、こういうオンナがトンと少なくなった。
イージーライダーが多すぎるんだヨ、バカどもがっ!
あっ、いえ、かけそばのハナシでした。
(ウルサ型のオバはんからまた非難のメールが舞い込むな、きっと)

「業平屋」
 東京都墨田区亀沢2-8-7
 03-3622-7978