2013年11月28日木曜日

第718話 「俺のフレンチ」、俺は好まぬ! (その1)

ずっと以前、イタリアワインを楽しむ会で
何度か同席したK村サンと久々に再会。
飲食店開業術のセミナーにつき合わされたのだった。
場所は市ヶ谷の谷から
靖国神社に向かって九段坂を上った中腹あたり。
島倉のお千代サンが
おっかさんの手を引いたのはここだろか?
あいや、九段下から坂を上って来たのであろうヨ。

セミナーは続いていたが早めに抜け出し、
酒盃を交えることにした。
新見附橋で外濠を西に渡り、牛込中央通りへ。
目当てのそば居酒屋「たまち屋」は案の定、準備中だ。
夜の開店は17時からで時計を見るとまだ16時半である。
時間を無駄にしたくない、よって界隈を散策することに―。

かつては活気があったこの通り。
神楽坂で人気のそば店「蕎楽亭」もここにあった。
イタリアンの「ラストリカート」も同じくである。
一時は一世を風靡したピッツァの「カルミネ」は
どうにか残存している。

一筋奥まったところにあるうなぎの老舗「宮川」は
驚くなかれ居酒屋と化していた。
昼間は焼き魚定食なんぞをウリにしたりもしている。
原材料のうなぎの高騰に耐えられなかったのだろう。
大変だねェ、わびしいなァ、一瞬、気の毒な思いが心にきざした。
商売繁盛であってくれればよいのだが・・・。

「蕎楽亭」より好きな日本そば店「芳とも庵」の店先に差し掛かる。
この店については近々あらためて紹介したい。
その数軒先にここ数年、
飛ぶ鳥を落とす勢いの「俺のフレンチ 神楽坂店」を見とめた。
恵比寿店や銀座店は長蛇の列ながら、ここは比較的空いている。
最寄りは大江戸線・牛込神楽坂だが駅からはちょっと歩く。
ロケーションがよろしくないのだろう。
名うての人気店も人の動線までは変えられまい。

われわれ二人、「俺のフレンチ」、「俺のイタリアン」ともに
利用したことは一度もない。
オマール海老はじめ、高価な食材を手頃な価格で提供し、
フレンチに縁遠かった若者たちの絶大なる支持を得たお店。
ヤングカップルにとっては”フレンチ入門”といった位置づけかな?

デセール大好き人間のK村サンの目が
店頭のメニューに釘付けになっている。
視線の先を追うとやっぱりネ、
クレーム・ブリュレ(380円)とあった。

しょうがないなァ、気配りに長けるJ.C.に
ここで袖を引くような冷淡なマネはできやしない。
「軽く一杯飲ってく?」―水を向けると
「そうしましょ、そうしましょ」―にっこり笑顔の二つ返事だ。
そば屋酒のつもりがフレカジュかいな、やれやれ、男はつらいよ。

=つづく=