2014年2月11日火曜日

第771話 桜海老を空振って (その1)

桜海老が大好きだ。
海老類の中では一番好きじゃなかろうか。
そう、伊勢海老よりも、車海老よりも、芝海老よりも・・・。
殊に新玉ねぎと合わせた、かき揚げには目がない。
釜揚げの桜海老を大根おろしと一緒にいただくのも大好物。
小指の先ほどもない小さな身体に滋味が満載されている。
まっことエラいやっちゃ!

その日は桜海老を求めて東海道線の旅。
行く先は本場・由比の町である。
目指すは「さくら屋」なる桜海老専門の食堂だ。
ところが仕掛けが遅かったものだから
由比駅に到着したのがすでに16時。
駅からそこそこ歩かなきゃならないし、あいにく天気は雨模様。
しかも16時過ぎには店仕舞いをしてしまう店なのだ。
こりゃ間に合わん。

よって由比で下車せず、そのまま気ままに車中の旅人を決め込む。
どこかにぎやかな街で降りて桜海老の代替品を探さなければならぬ。
静岡じゃちょいと遠すぎるし、
かといって沼津や三島にとって返すのもシャクだ。

結局、降り立ったのは清水駅だった。
まだ浅い時間だから中休みで閉めている店のほうが多い。
難儀なことである。
およそ10年ぶりで「末廣鮨」に立ち寄ってみようか・・・。
ミナミマグロで名高い人気店ながら
それほどマグロが食いたいワケでもナシ、
第一、ふところ具合が少々さびしいから鮨屋は見送ろう。

アーケードの商店街を端から端まで歩いてみたものの、
ピンと来る店が皆目見つからないのは
やはり時間が早すぎるのだ。
「西友」だったかな?
スーパーの食料品売場で時間をつぶし、
再びアーケードに舞い戻っても同じこと、まいったなァ。

それでも商店街のはずれに1軒の鰻屋を見とめた。
屋号は「清水うなぎ店」。
ずいぶんベタなネーミングだけれど、
店のたたずまいに惹かれるものがあった。
稚魚不足からここ数年、鰻の値段が高騰しているが
鮨屋に比べりゃ、相対的に鰻屋のほうが安い。

桜海老のつもりが何で鰻になるんだヨ。
自問しつつも引き込まれるように敷居をまたいでいた。
予想した通り先客はゼロ、貸切状態である。
身体は冷えているのに例によってまずはビールだ。
念のために銘柄の品揃えを質してみると、
マンマ・ミーア!
絶望的な返事が返ってきた。

=つづく=